第124話 寂しがりとコタツの相性はミカンのように抜群

 真理音との楽しいお泊まり会から数日が経った。てっきり、この機会に生じてまるで同棲しているみたいに毎日一緒に寝るのではないか、等と考えたりもしたがそんなことはなかった。どうやらまだ、お泊まり会はたまにして特別感を味わいたいとのことらしい。可愛い理由だった。それを、言われて頭を撫でると気持ち良さそうに目を細めていた。


 個人として、もうとっととどっちかの家で生活してもいい、という考えがないわけではない。でも、可愛い理由を言われては納得せざるを得ない。だから、少しでも長くいるようにここ最近はしょうもない理由をつけて引き止めたりしているが、その事は誰にも言わないでほしい。特に真理音には。喜ぶのが目に見えているからな。



「よし、完成」


 実家から送られてきた使い古しコタツの設置が完了したのは土曜日の夕方だった。昼に届いた時に、真理音は目を丸くしながらどうしてかと聞いていたのに今は俺よりも早く温もりながら身体を丸めている。


 机の上に頬をだらしなく乗せ、表情筋が全て仕事をしていないみたいに気持ち良さそうな真理音。だらしない「ほわぁ~~~」という間抜けな声がどれだけ幸せなのか物語っている。


「真人くんは神様です……いえ、星宮家の皆さんが神様です。今度、伺う時はお菓子を献上します」


「大袈裟だな……いいんだよ、気にしなくて。俺も入りたかったからさ」


 その代わり、しばらくの間、ソファで隣り合うことはお預けになったけど。ソファも置いて、コタツも置いては流石に無理だ。それをするためのスペースはない。将来は広い一軒家かここよりも大きな部屋があるマンションに住みたいな。もちろん、頬が伸びたお餅みたいになってる真理音と。


「見つめてどうしたんですか?」


「いや、こんなにもダランとした真理音は見たことなかったからさ。新しい一面を見れて微笑ましいというか」


「馬鹿にしてるんですか? コタツは最強なんですよ!」


 よろよろと腕を伸ばしているため、行動と言動が一致していない。普段のてきぱきとした行動が嘘のように思えるくらいだ。


「はい、ミカン」


 リビングからかごにいれたミカンを真理音の前に持っていく。


「後、ティッシュとゴミ箱」


「真人くんはよく分かっています。流石、私の彼氏です。これは、評価絶大です」


「よく分からないけど喜んでくれてるなら良かったよ」


 たかが、必要そうなものを用意しただけでこの褒めよう。今日は随分と考察能力も弱まっているらしい。


「ミカン剥けそうか?」


「そこまで、甘える訳にはいきません」


「なら、身体を起こすくらいはしような」


「えへへ。コタツに吸い込まれそうです」


 仕方ない。今日は俺がお世話するとしよう。普段のお礼に。

 皮を剥いて、食べれるようになったミカンをちらつかせる。真理音はエサを貰うような動物のように口を小さく開けた。そこへ、ミカンを一粒運び、目の前にして自分の口へと入れる。うむ、甘くて美味しい。

 ふと、真理音を見ると頬をパンパンに膨らませていた。これまたお餅が膨らむように。


「真人くんは今重罪を犯しました」


「そんなに罪深いこと?」


「当然です。好物を見せて、自分が食べるなんてとっても悪いことです」


「自分で動いていない人から出る言葉とは思えないな」


「今は甘えたがり期なので甘やかしてください」


 可愛くおねだりされると叶えるしかない。はなから、甘やかしてあげるつもりであったけど。


「はい、あーん」


「あーん」


 真理音の口へミカンを入れる。喉を詰まらせないように気を付けながら噛んでいる姿を見ているとダメ人間ってこんなことくらいしか気を付けることなさそうだなと思う。


「はぁ~~~やっぱり、ミカンとコタツの組み合わせは最高です。たまりません。脳が震えています」


「夢が叶って幸せか?」


「はい。私の家にはコタツがありませんでしたし、一人暮らしだと益々必要ないですから。それに、何より嬉しいのは真人くんとこうやっていられることです。とっても、幸せです」


 満面の笑みで言われるとこれから冬が来る度、必ずこうやって過ごせるように努力しようと思わされる。この冬を最後になんてしない。絶対に、と。


 それから、ふたりでテレビを見たりしながらのんびりと過ごした。

 そんな時間が二時間程経った頃。

 いきなり、真理音が頬を赤らめながらもじもじと身体を動かし始めた。少しばかり、しかめているようにも見える。熱くなってのぼせたのだろうか。


「ま、真人くんどうしましょう。ものすごく、お手洗いに行きたいです」


 なるほど、尿意を我慢していたらしい。


「ミカンを勝手に食べたりってのは無駄な心配だぞ」


「違います。動きたくないんです」


 あの真面目な寂しがりがここまで不真面目になれるのかと思うとコタツの魔力は凄まじい。ダメ人間製造機だ。


「……流石にお漏らしは――」


「ち、違いますよ! お漏らしなんてするはずないじゃないですか!」


 どうやら、お漏らしは禁句なワードだったらしい。真っ赤になった真理音がコタツに入って初めて身体を起こしたまでだ。


「そ、そうか。じゃあ、何かしてほしいことあるのか?」


「はい。トイレまで運んでください」


「……今からそんなんでいいのか。何か大事なものを失ってるぞ。それに、それを頼むのは何十年も先のことだと思うんだが……」


「ぶつぶつ意味の分からないことを言っていないで早くしてください。ほんとに漏らしてしまいます」


 何ともまあ、わがままなお姫様だ。が、まあ本当に限界が近いらしいし致し方ない。

 注文を受けたお姫様抱っこで真理音を持ち上げる。


「真人くんにぎゅうー」


 落ちないようにしているのだろうが、ただくっつきたいだけなのではないかと思う。存分に引っ付かれたままトイレまで運んだ。


 彼女がお花を摘んでいる所を聞き耳を立てて興奮するほど特殊性癖持ちではないし変態でもない。部屋に戻って机の上に散らばったミカンのゴミなどを片付ける。どうか、トイレで後悔してくれていますようにと願いながら。


 しかし、そんな願いも虚しく。


「真人くーん。お迎えにきてくださーい。動けませーん」


 呑気な声が届く。

 俺はため息をつきながらお迎えにあがった。コタツを用意したのは間違っていたかもしれないと思いながら。

 当然、帰りもお姫様抱っこを要求された。




――――――――――――――――――――

昨日は、読者様にしか持ちえない評価という権利をこちらの勝手なお願いにお付き合いくださって本当にありがとうございます。


沢山の方に反応頂けて誠に嬉しい限りです。

感謝しかありません。

ほんっっっとうにありがとうございました。

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