第41話 それは、愛してるゲームよりも恥ずかしさをもたらす遊び
「真人くん、ゲームしましょう」
「唐突だな。いいけど」
晩ご飯を食べ終え、洗い物を済ませてからのことだった。目を輝かせ、意気揚々とした真理音が提案してくる。
「で、何で遊ぶんだ? 有名ゲームなら一通りは揃えてあるぞ」
「違います」
テレビの前に置いてあるソファまで行こうとして真理音に止められた。
「テレビゲームしかないぞ?」
最近、発売された持ち歩き可能な有名ゲームも買ってはあるが、今は妹に渡しているため実家に存在している。どうやら、某人気タイトルであるポケットに収まるモンスターの最新作を遊びたいらしい。
すると、何故かどや顔を浮かべた真理音が得意気にスマホを出す。
「これです、これ。これをやってみましょう」
「えー、何々。相性診断アプリ?」
「はい。今日、九々瑠ちゃんに教えてもらったんです」
アイツめ、余計なことを。
「恥ずかしそうな遊びだな。それより、テレビゲームの方が断然面白いと思うぞ」
「私はこれがやりたいです」
譲りそうにない瞳で近寄ってくる。やらないと拗ねるよな……めっちゃ、楽しみにしているようだし。
「分かったよ。やればいいんだろ」
「はい。では、名前を入力しますね」
「はい、どうぞどうぞ」
「二条真理音、星宮真人」
ぶつぶつ名前を呟きながら入力する真理音がピタッと硬直した。
「結果、出たのか?」
横からそーっと覗き込むと【診断結果 相性最悪】と画面に出ていた。
「故障です。これは、故障です。これは、何かの間違いです」
物凄い速度で画面を変え、新しいアプリを起動してこちらに見せてきた。
「次はこれで遊びましょう」
「えーと、心情表現アプリ?」
「はい。今日、九々瑠ちゃんに教えてもらったんです」
アイツめ、本日二度目の余計なことを。
「それ、どうやって遊ぶんだ?」
「えっとですね、私が真人くんの姿を撮影するとマンガの吹き出しのようなものが出て、相手に対して思っていることを表示してくれるんです」
「ほう」
「それだけです」
「ようはあれだな。これも、恥ずいアプリって訳だな」
「どうしてですか?」
「それに気づけない時点で真理音はこれで遊ばない方がいいと思うぞ」
だって、もし「好き」とか「愛してる」とか表示されたら困るだろ。まぁ、俺の場合はそんなこと思ってないから表示されることもないんだけど。でも、万が一ってこともあるわけで。
それに、もし真理音の方にそう思われていても俺は何も言えない訳で。どっちにしろ色々と詰むんだよ。
「嫌です。遊びたいです」
「分かった分かった。じゃあ、どうぞ」
これは、ゲーム。だから、もし俺の想像通りになったとしても遊びだからで言い通す。
「ポーズとかした方がマンガっぽくなるのか?」
「ポーズはいりません。そのかわり笑ってください」
「こ、こうか?」
「ふふ、真人くん。ぎこちないですよ」
「うるさいな。写真、苦手なんだよ」
「可愛いですよ」
俺の顔がよっぽど可笑しいのかクスクス笑う真理音。
真理音の方が比べるのも申し訳ないレベルで可愛いとは言わず、いつまでも写真を撮られる前の緊張をしたくないため急かすことにした。
「いいからさっさとやってくれ。覚悟は出来た。一思いに、さぁ!」
「真人くん、何と勘違いしてるんですか?」
カシャ、という音が耳に届き脱力したように腕をぷらんとさせる。
「で、なんて出た?」
「こ、これです……」
「こ、これは……」
ぎこちない笑顔を浮かべる俺の斜め上に出た吹き出しの中には【嫌い】と表示されていた。
「まじかー、すごーいアプリだな。まさか、正解を出すなんて。いや、天晴れだ!」
勿論、嘘だ。真理音のことを嫌いだなんて思ってない。でも、真理音がどういう反応をするのかちょっと楽し――気になって役者もビックリするような名演技を大袈裟に披露した。
すると、真理音は泣いた。
「う、嘘です。こんなの嘘です!」
「どうして嘘だって決めるんだ? 本当かもしれないだろ?」
「ううっ、嘘です嘘です嘘です。真人くんがそんなこと思ってるはずないんです!」
「でも、アプリが出した結果だし」
「このスマートフォンが壊れているんです。じゃないとあり得ないです。壊れていないなら壊します」
ここらで止め時だな。腕を掲げて本気で壊しに走ってるし。
「嘘だよ」
真理音の腕を掴んで静かに下げる。
「ぐすぐす……」
「ちょっと、真理音のことからかっただけだから」
「本当ですか?」
「ほんと」
「では、私のこと好き……ですか?」
「そりゃ、好きか嫌いかで聞かれると……って、これ以上言わせるな」
「嫌です。言ってもらいたいです。意地悪したんですから反省してください」
くっ……こんなことになるならからかわなきゃ良かった。
「こ、これだけは言っておくぞ。今からいう言葉に特別な感情はないからな。あくまでも誤解しないでくれ」
じいっと見つめられ、喉が詰まりそうになる。特別な感情はなくても、これを言うのはどうしても緊張してしまう。
「真理音のこと……好き……だよ」
「ふふ。ふふふ。ふふふふ。嬉しいです」
「と、友達としてだからな!」
「友達としてでも嬉しいです。因みに、何番目ですか?」
「……一番目だよ」
「私、このまま溶けてもいいくらいに嬉しいです……」
なんなんだろうか。この告白してもいないのに成功したような気持ちは……。前々から思ってたけど、真理音って俺のこと――いや、深追いは止めよう。応えられないのだから。
「そ、それより、次真理音の番だろ。スマホ、貸してくれ」
真理音からスマホを奪い向ける。
すると、何故か頭を気にして前髪を整えている。
「どうしたんだ?」
「どうせなら可愛く撮ってもらおうかと」
「それなら必要ない。既に可愛いぞ」
「……っ!」
カメラ越しでも分かる。真理音の頬が赤く染まっていくのを。
そんな姿を写真に収めた。
「ど、どうでした?」
「大嫌い、だってさ」
どうやら俺と真理音はとことんなまでに嫌いあっているらしい。結果によればだけど。
「壊れてますね、このあぷり」
うわぁ……もう、消す気満々だ。アンスト画面までもってってるし。
「私が真人くんのこと嫌いなはずないのにこのあぷりはダメです。低評価しておきます」
「うん、どうぞお好きに」
「では、最後に仲良し度チェックをしませんか?」
「それ、後々自殺したくなるやつじゃないか?」
「私は、ベッドの中で後悔するレベルだと思います」
「分かっててやるとか……チャレンジ精神恐ろしい」
「ものは試しですし。さ、真人くん。つーしょっと写真を撮りましょう。そして、私達の仲良し度を確認してみましょう」
「はいはい、もう付き合うよ……」
「では。はい、ちいず」
「ちーず……」
自撮りした結果、やつれた俺と可愛らしくピースを決めている真理音の姿が画面に写っていた。そして、ふたりの間には200%という数字が表示されていた。
「どうやら、私達はとっても仲良しのようですね」
「そうだな」
「ふふ、このあぷりは良い子です。高評価しておきます」
とびきり笑顔の真理音。
そんな笑顔を見せられたらどれだけしんどい思いをさせられてもまあいいかと思ってしまう。
俺達の仲良し度は200%、か……。
それが、妙に嬉しいと密かに思っている俺だった。
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