第59話 水着姿の寂しがりはいつもより輝いて見える

「あっちぃ……」


 そうは言っても上は裸、下は水着だけの薄装備。正確にはパーカーを羽織っての状態だが、いつもと比べたら随分と涼しい。

 それでも、暑いと感じるのはサンサンと輝く太陽と人の多さによる熱気からだろう。


 今日は真理音と斑目と約束していたプールへと来ていた。女の子にはきっと色々あるのだろう。とっとと水着に着替え、集合場所に着いてもふたりはまだいなかった。


 椅子に座りながら手を団扇代わりにして風を作る。汗のベタベタと足裏のヌメヌメが少しだけ気持ち悪い。経験上、清掃がちゃんといき届いてないのではないかと思う。


 家に帰ればすぐに風呂に入ろう。そんなことを思っているとトントンと肩を叩かれた。叩かれた方に振り向くとむにっと人差し指が頬にめり込まれる。

 真理音だった。にまーっと嬉しそうな笑みを浮かべて楽しんでいるご様子。


「最近、こういうのが好きなの――」


 呆れながら口にすると思わず、何も言えなくなってしまった。綺麗な水色のふわふわビキニに身を包んだ真理音。真っ白でもちもちの肌、余計な脂肪が一切ない美しい身体。幼い顔のくせに大きいふたつの果実。それらが、ふんだんに強調されていて目を丸くしてしまった。


「どうかしましたか?」


「い、いや……その、水着姿似合ってるなって……」


「ど、どうして、言っちゃうんですか! 折角、気にしないように振る舞っていたんですよ!?」


「そ、そんなこと言われてもしょうがねーだろ……可愛いんだから……」


「あ、ありがとうございます……」


 もじもじと動く度に大きな胸が強調されて目のやり場に困る。服を着ている時よりもなんだか大きく見えて……真理音って着痩せするタイプだったのか?

 目を逸らしていると斑目の声が聞こえてきた。


「真理音、ちゃんと日焼け止めは塗らないとダメよ。真理音の綺麗な肌が太陽に焼かれちゃうから」


 すると、真理音は斑目の背中に隠れて警戒するような形で俺を見てくる。そんな姿を見て斑目はギロリと俺を見下ろした。


「星宮……真理音に何をしたの? 返答によっては――」


「待て待て待て待て。俺は何もしていない。俺は水着姿が似合ってるって言っただけだ」


「そう。それなら、許してあげるわ」


 真理音に対しては見てはいけないような気持ちになるのに斑目に対してはそういうことがこれっぽっちもない。どうしてだ?

 斑目だって顔は良い。黙ってれば、真理音と同じくらい可愛いし綺麗だ。黒髪ツインテールだってよく似合ってる。大人っぽい黒の水着だって……あ、分かった。斑目の場合、控えめだから真理音を見るよりも安心なんだ。


 ああ、よかった。真理音ばっか見てたら一日まともに過ごせなさそうだったのが斑目のおかげで大丈夫そう――


「おい、今どこ見て何を思った?」


 すると、斑目からいきなり頬をつねられた。肉をちぎりそうな程強く、鬼の形相をしている。


「な、何も思ってない思ってない思ってない」


 このままじゃ、ほんとに片頬がなくなってしまうと察した。だから、必死に首を横に振った。手も加えて。


「ふん、別にいいわよ。どうせ、私は小さいわよ。行こ、真理音。日焼け止め、塗ってあげるから」


 拗ねてしまった斑目は真理音を連れてもう一度更衣室へと戻っていってしまった。悪いことしたな。後で、謝らないと。



「はぁ……」


 しかし、そう思っていたのも意味がないかのように今の斑目は楽しそうにプールで真理音と一緒にはしゃいでいた。何やら、日焼け止めを塗る際、真理音の肌に触れて元気になったらしい。変態的理由に呆れてため息が出そうになる。が、まぁ、斑目の機嫌が悪いと真理音も楽しくなかっただろう。そうはならなかっただけ良かった。


 俺はジュースを口に含んだ。今日の役目はふたりの用心棒。ふたりに斑目の言うクソ男共が近寄らないように注意して見張っていなければならない。

 ただ、そんな機会はなさそうだ。

 ふたり特有のふたりだけの世界みたいなものが形成され、誰も邪魔をしてこない。むしろ、あれを邪魔するものは勇者と称えられることだろう。斑目の冷たい声ですぐに退散させられるだろうが。


「しっかし、ほんと仲良しだよなぁ……」


 水をかけあったり、くっつきながら潜りあったりと笑顔が絶えないふたり。真理音とは随分と仲良くなったと思う。いや、確実にそうだ。告白までされて仲良くないはずがない。

 それでも、あの笑顔は俺といる時には出ないものだろう。男女の友情より女の子同士の友情、というやつの方が強いはずだからだ。


「真人くーん!」


 真理音がうさぎみたいにぴょんぴょん跳ねながら呼んでくる。無自覚なのだろうが、その度に視線を釘付けにするように胸も揺れる。

 咄嗟に視線を逸らすとそれが無視されたと勘違いしたのかもう一度呼ばれる。


「ま・な・と、くーん!」


 チラッと確認するともう跳ねていなかった。腕を大きく振って、返事するまで止めないといった様子だった。

 そんな真理音に小さく手を振り返した。

 すると、彼女は満足いったという笑顔を浮かべて再び斑目と楽しそうに遊び始めた。


 太陽に照らされ、キラキラと輝く水面ではしゃぐ真理音は普段より一段と輝いて見えた。

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