第5話 寂しがりは誘う。ふたりで二次会をしませんか?
自己紹介も終わり、みんながみんな自由にグループを組んで楽しそうに会話を広げていた。
その中でも一番注目を浴びていたのはやはり二条さんだ。
二条さんは性別問わず常に誰かに囲まれている。それでも、多いのは男の方だ。今も三人の男に囲まれ何やら質問されている様子だった。
やっぱ、二条さんって可愛いんだな。
俺だけ席を移動しないままその様子を眺めながらそんなことを思っていた。
「ふぅ……」
隣に戻ってきた二条さんは小さなため息をつきながら注文していたジュースを口にしていた。話しすぎて喉が渇いたのだろう。
「お疲れ」
「ありがとうございます……。星宮くんは誰とも話さないんですか?」
「俺は話すより食べる方に専門したいから」
「ぶれませんね」
「金、払ってるからな。食えるだけ食っといた方が得だろ」
「そうですね。では、私も――」
と、二条さんが箸を伸ばしたところでまた話しかけられていた。
男が二人で二条さんの隣と向かいに座り話題を振っている。
ほんと、大変だな……と思いながら注文したお酒を一口口に含んだところで俺にも会話する機会が訪れた。
「ずっと、移動してないけどどうしたのー?」
空いていた隣に座り、俺のことを覗き込むように見てくる女の子。名前は……なんだったっけ?
「どうしたもなにも食事してるだけだけど」
「あ、お酒飲んでる。何飲んでるの?」
おい、会話のキャッチボール出来ないのか?
「桃の酎ハイ」
「へぇ~甘い? 甘いもの好きなんだよね?」
「まぁ、アルコール少ないし桃の味するから甘いけど」
「そうなんだ。あたしも飲もっかなー。あんまり二十歳になってる人いないから一緒に飲める人少ないんだよね」
「誕生日迎えてるって方が少ないだろうからな」
「そうなんだけどねー」
メニュー表を見ながら注文を済ませる彼女。その間にチラッと二条さんのことを見るとまだ質問攻めに合っている様子だった。
御愁傷様。と、心の中で両手を合わせていると注文を終えた彼女が再び話しかけてくる。
「スイーツ巡りとかするの?」
「別に嫌いじゃないけど……巡ったりはしない」
「えー、甘いもの好きなのにそれは勿体ないよ。あたしも甘いもの好きでよく食べ歩きとかしてるんだけど今度美味しいお店連れてってあげよっか?」
これは、デートのお誘いか?
「ん?」
名前も分からないけど正直に言えばこの子も可愛いしデート……じゃなくても、一緒に遊べたらきっと幸せなんだろう。普通の男ならば。
けど、俺は違う。俺は知っている。可愛い子の言うことの大半は嘘なのだと。だから、俺はまんまと引っ掛からない。誘いにも乗らない。ここは、お断り一択だ。
と、その瞬間、背中をくいっと引っ張られた。この状況でそんなことを出来るのは一人しかいない。二条さんだ。
ただ、どうしてそうされたかは分からない。耳を済ませば二条さんの声が聞こえてくる。しかし、相手は俺じゃない。俺には何も言ってこない。服を小さく掴まれているだけ。
ほんと、なんなんだ?
「で、どうするー?」
「まぁ、機会があればで」
一先ず、二条さんのことはほっといて答えた。はっきりとは断らない。仲良くなる気もなければ、必要以上に仲を悪くする気もないからだ。
答え終わると服がそっと放された。
結局、親睦会で会話したのは二条さんとスイーツの話をした彼女の二人だけだった。満腹になるまで食べたから損はしてないと思うけど、やっぱり来る意味もなかった。
「よーし、じゃあこれからカラオケで二次会しよーぜ」
はぁぁっ!?
明日は休みということでみんなテンションが上がっているのだろう。その場のノリらしきもので決めている。
絶対に参加したくない。
「俺はここで帰るから」
「えーノリ悪いって。こういうのはみんなで参加しないと楽しくないだろ?」
ほら、出たよ。集団の中に一人はいるであろうノリ絶対主義者。楽しければなんでもいい考えをしてる能天気で相手のことを考えない俺の嫌いな人種だ。つーか、なに気軽に肩に手を置いてんだ。
「いや、いい。俺のことは気にしないでくれていいから。それに、そろそろ帰って洗濯物しまわないとだし」
「そんなん明日でいいじゃん」
「明日になればもう一回干さないとダメになる。そんな二度手間したくないから俺はこれで」
無理にでも会話を終わらせとっとと俺はその場を離れた。この選択でみんなと仲が悪くなったのなら仕方ない。親睦会には参加したんだし二次会なんて勘弁だ。
「ほ、星宮くん」
イヤホンを耳にする前に二条さんの声が後ろから届いた。立ち止まって振り返ると息をきらした二条さんが「待ってください」と口にする。
「どうした?」
「わ、私も帰ろうかなと思いまして」
「それは、俺関係してないよな」
「は、はい。カラオケは苦手ですし私も洗濯物取り込まないといけないので」
「あー、その話な。嘘だ嘘。俺、いつも纏めて干す派だから今日はまだ干してない」
「そうなんですか? じゃあ、どうして?」
「早く帰りたかったから」
「ほんと、ぶれませんね」
「じゃあ、そういうことで」
片手を上げて別れを告げてとっとと帰ろうと歩き出した時、腕をパシッと掴まれた。
「あの。もしよろしければ私と二次会しませんか?」
「は?」
「だって、せっかくの親睦会なのに星宮くんとは全然話せませんでした」
「でも、洗濯物取り込まないといけないんだろ? そんな時間ないだろ」
「明日で大丈夫です」
「だからってなぁ……」
もし、二条さんと二次会をしているところを誰かに見られたらどう思われるか。俺達の誘いには断ったくせにって思われて、変な勘繰りをされてしまうんじゃないだろうか。
そんなの絶対に嫌だ。でも、がっつり腕を掴まれていて放してくれそうにない。
「それに、私お腹空いたんです。どこかで食べてから帰ろうと思ってるんです」
「自由にしたらいいだろ」
「ひとりは嫌です。寂しいですから。だから、少しだけ付き合ってください。ダメ、ですか……?」
二条さんは俺の手をきゅっと握りながら上目遣いで言ってくる。その反則的な技に俺はもう断れないことを悟った。
「ちょ、ちょっとだけだぞ」
「はい」
満面の笑みを浮かべる二条さんに俺の心臓は少しだけ早くなっていた。
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