第129話 美少女って何しても可愛く見えるから罪だよね

「ま、真人くん。九々瑠ちゃんのむ、胸を堪能なんてしたら許しませんからね」


「しないって」


 そもそも、堪能するものがな……おっと、これ以上は殺されるので止めておこう。しかし、真理音といい斑目といい女の子ってみんな軽い生き物なんだな。


「てか、それだけ心配になるならおんぶじゃなくてさお姫様抱っこの方が良かったと俺は思うんだ。でもさ、真理音が絶対ダメです、って譲らなかっただろ?」


「当たり前です。例え、九々瑠ちゃんでも真人くんのお姫様抱っこは譲りません」


「うん、そう言ったからこうやっておんぶにしてるんだ。真理音に背負わせる訳にもいかないしさ」


「むぅ……そうですけど、不服です」


 ヤバい、段々と機嫌が悪くなってきてるような……本人は呑気に寝てるし……って、痛い痛い。髪を引っ張るな。誰のせいだと思ってんだ。


「そ、それよりもさ、斑目の家ってもうすぐなのか?」


「はい。あ、あそこですよ」


 真理音の指差した先に見えるのは普通のどこにでもありそうな一軒家だった。真理音がチャイムを鳴らすと中から斑目のお母さんらしき綺麗な人が出てきた。挨拶をしてから事情を説明している様子を見ているとこっちを向かれたので頭を下げる。

 それから、娘がすいません、と謝られたので笑顔を作りながら斑目を彼女に託した。


「真理音~星宮~ばいばーい」


 寝惚けた斑目にふたりして手を振って、頭を下げて帰路についた。


「真人くん。おんぶしてください」


「唐突だなぁ……いいけど」


 真理音を背負って歩き出す。あ、やっぱり、真理音の方が堪能しちゃう。


「真人くん、寒くないですか?」


「うん。あったかいよ」


「なら、もっとぎゅうっとしちゃいます」


「なんで!?」


 質問に答えず、真理音が強く抱きついてくる。あったかいんだけど心臓に悪い。


「……上書き、だからです」


「そっか」


 九々瑠ちゃんよりも私を、って意思表示だよな。これ。


「真人くん」


「ん?」


「誰彼構わずに優しくするのは……やめてくださいね」


「……不安にさせてごめん」


「いえ、優しくするのはいいことなのに私の方こそすいません……」


 首に回している真理音の腕がきゅっと強くなる。


「俺さ、真理音が好きだから真理音にもずっと好きでいてもらえるような俺でいたいんだ」


「私はずっと真人くんが好きですよ」


「うん、そう言ってくれると思った。だから、これからは不安にさせないように気を付ける」


「では、帰ったらぎゅっとしてくれますか?」


「もちろん。渡したいものもあるんだ」



 家に帰ると先ずはパーティーの片付けを始めた。ゴミを集めて、洗い物を済ます。プレゼントを渡すのはそれからだ。


「はい、これ。クリスマスプレゼント」


「あ、ありがとうございます。開けていいですか?」


 早く開けたい、と目で訴えてきたので笑顔を作ると真理音はサンタクロースにプレゼントを貰った子どものように目を輝かせながら開封した。


「耳当て、ですか?」


「うん。ほら、真理音って耳が弱いだろ?」


「ど、どういうことですかね?」


 よっぽど知られたくないのだろう。下手くそな嘘で誤魔化そうとしてくる。そんな彼女に向かって手を伸ばす。驚かれて目を閉じられている間に髪をかき分けて耳に触れる。


「今もまだこんなに赤いままなのに何言ってんだよ」


「あ、ひゃっ……ま、真人くん」


 くすぐったそうに身体をよじられるが真理音の耳は冷たいまま。その冷たさを温めたくて手でそっと包んだ。


「耳ってさ冷たいままだと痛いじゃん。真理音の場合は特に長いだろ。だから、耳当てがあったら少しはましになるかなって」


「……気付いてたんですか?」


「当たり前だろ。真理音のこと見てるんだから」


 真理音は髪で隠せていると思っていたのかもしれない。でも、ちゃんと見てた。外にいる間も真っ赤だし、中に入っても中々治まらないことを。


「真人くんってもうダメです。私を嬉しくしすぎで罪です」


「そりゃ、申し訳ない。責任、とらないとな」


 約束していた通り、真理音を抱きしめる。


「責任になってるかな?」


「……少し、物足りないです」


「承知しました」


 そっと目を閉じられたので唇を近づけていく。交わしてから目を開けると幸せそうに微笑んでいる真理音がいた。


「真人くんにもプレゼントがあるんです」


 カバンから紺色のマフラーが取り出され、手に乗せられた。


「ありがとう。巻いていい?」


「はい」


 首に巻いて、ある違和感を覚えた。


「温かいんだけど……ちょっと、長い?」


 随分とマフラーに余裕がある。もうひとりくらい、一緒に使えるみたいに。


「実は、真人くんと一緒に使いたくてわざと長くしました」


「なるほど……って、え、手作り?」


「は、はい……その、重たいですかね?」


「ううん、そんなことない。スッゲー嬉しいよ」


「手編みって初めてなので上手に出来たかは分かりませんが」


「上手い下手じゃねーよ。こういうのは気持ちが大事だと思う」


 そもそも、手編みなんてしたことないから分からないけど、普通に店を出せるレベルだと思うし。


「気持ちは沢山込めました。真人くんを温めたいなって。いつも、真人くん寒いって言っていましたから」


「聞いててくれたのか?」


「当然です。私だって、真人くんを見ているんですから」


「なんか、さらに熱くなった」


「それは、何重にもして巻いているからですよ」


 しょうがないだろ。自分の首を絞めるように自制してないとついつい真理音に何かしてしまいそうになるんだから。


「真人くん、私にも分けてくれますか?」


 マフラーをほどき、余っている部分を真理音に渡す。彼女はくるっと首に巻くと隣に立った。俺と真理音の身長さでも十分ふたりで温め合える。


「ありがとう、真理音。大切に使うよ」


「あ、あのですね。実は、もう一つプレゼントがあるので目を閉じてくれますか?」


 何だろう。手編みのマフラーだし、手編みの手袋とかかな。

 ワクワクして待っているとプレゼントは全くの別物だった。

 唇に柔らかい、ついさっきも触れた感触が触れた。


 目を開けると真理音は頬をほのかに染めていた。


「わ、私からもお返しです」


 ああ、もうダメだ。


「え、ま、真人くん!?」


 俺は何かの糸がぷつんと切れた音と共に真理音を力強く抱きしめて思う存分身体を密着させた。


「真理音が悪い。可愛い真理音が悪い。だから、お仕置き」


 真理音が苦しいとか嫌だとか思わないようにだけ配慮して、自分が責められると逃げようとするクセをさせないでずっと抱きしめ続けた。

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