第128話 美少女とアルコールは危険
トナカイコスから解放され、真理音のシチューも完成し、ようやく晩ご飯である。シチューをメインにサラダとパン、買ってきたチキン。飲み物はジュースとノンアルコールワイン。これにて、パーティー準備完璧だ。
ジュースをグラスに注ぎ、三人でカチンと音を作る。
「「「かんぱーい」」」
ゴクゴクと喉にジュースを流し込み、各々料理に手をつけた。
「はあ~、私も今日で二十歳か~。来年は成人式なんだよね~」
「ああ、成人式な。興味なさすぎて忘れてた」
「ダメですよ、真人くん。一生に一度ですから出席しないと」
「分かってるよ。俺よりさ、ふたりの方がどうなんだよ? 準備とか早い方がいいんだろ?」
男なんてスーツを着て、髪をちょちょいと整えるだけでどうとでもなる。でも、女の子はそうはいかない。特に、振袖の準備は急がないと良いものが残らないと聞く。斑目は知らないが真理音は知る限りで用意をしてないと思う。
「私は……」
「大丈夫よ。真理音のことはちゃんと考えてるから。また今度話そ」
「九々瑠ちゃん……ありがとうございます」
「お礼なんていいの。私が真理音と一緒に出たいだけなんだから。だから、任せてね」
たまに、斑目のことを真理音の彼氏なんじゃないかと思う時がある。俺がしてあげれることよりも、斑目の方が多いんじゃないかって。
「お、俺にも出来ることがあったら何でも言ってくれよ」
「星宮に出来ることか……ないわね」
「ないのかよ」
ボケをかましていると真理音はクスクスと可笑しそうに笑う。俺と斑目は顔を見合わせると安心して小さく笑い合った。真理音のことを笑顔に出来て良かったと彼女に気付かれないように。
楽しく会話しながらパーティーは進んでいく。
「真理音のシチュー美味しい」
「九々瑠ちゃんに喜んで頂けて嬉しいです」
相変わらず、仲が良いふたりを見ているとふと思う。あれ、これ、ハーレム状態じゃないか、と。美少女ふたりと我が家でクリスマスパーティー。字面だけ見るとリア充極めてるな、俺。真理音が好きだから例えハーレムでも気持ちが揺らぐことなんてないけど。
すっかり、料理を食べ終えデザートのケーキを取り出す。小さめのホールケーキ(イチゴのショートケーキ)。グラスにワインを注ぎながら、真理音が切り分けたケーキを皿に乗せて配る。
と、思い出したように真理音が手をパンと叩いた。そして、カバンの中からプレゼントらしきものを取り出した。
「はい、九々瑠ちゃん。お誕生日、おめでとうございます」
「ありがとう。開けていい?」
促すように頷いた真理音を見て、綺麗に包み紙を剥がす斑目。出てきたのは日記帳だった。
「九々瑠ちゃんがくれたチケットと比べると値段が落ちてしまいますが残りが少ないと言っていましたので」
「値段なんて気にしないでいいの。ありがとう。すっごく嬉しい。早速、使うね」
「はい」
どうしよう。俺、なんにもプレゼント用意してない。誕生日って知ったのも今日だったし。
「悪いな。俺から渡せるものない」
「いいわよ、そんなの。私もあげてないし。それに、ここ使わせてもらってるしさっきので笑わせてもらったから。だいたい、私達そんな間柄でもないでしょ?」
確かに、そうだ。ここで、何か用意していてもあまり喜ばれてはいなかっただろう。
「それよりもさ、早くもう一回乾杯しよ。私、ワイン初めてだから気になってるの」
主役きっての頼みなので、もう一度三人でカチンとグラスを合わせる。
俺もワインを飲むのは初めてだ。まあ、ノンアルコールだからゴージャスな大人が飲むようなやつとは違うけど……うん、今の俺にはこれくらいがちょうどいいな。甘さもあるし嫌いじゃない。
真理音は――
「……難しくてよく分かりませんね」
どうやら、まだ分からないようだ。俺もそうだけど。テレビでグラスをくるくる回す仕草の意味とか知らないし。
お黙りの主役は初めてのアルコールに感動して涙でも流しているのだろうか、ともしそうなら笑ってやろうと企みながら視線を向けると既に出来上がっていた。
「真理音真理音真理音真理音!」
たった、一口飲んだだけで酔いつぶれた主役は真理音に抱きついた。おい、ちょっと待て、と言う間もなく、真理音に抱きつきながら頬を猫のようにすりすりとしている。
「どうしましょう、真人くん。九々瑠ちゃんが……え、どうしてスマートフォンをこちらに?」
「気にしないでいいよ。それより、斑目の面倒見た方がいいんじゃないかな」
「そ、そうですね」
そうそう。真理音は俺のことなんて気にしないで泣き始めた主役を撫でてあげてればいい。今だけは寛大な心で譲ってやってるのだから。
「私はね、真理音のことが好きなの。なのにね。最近はね。星宮に一人占めされてね。寂しいの……うう。真理音~」
酔うと本心が出るとは本当らしい。しかも、一口でこの壊れよう。真理音もだけど、美少女とアルコールは掛け合わせちゃいけないかけ算のようだ。ノンアルなんだけど。
「真理音~ケーキ、食べさせて。あーん」
甘えた子どもみたいな斑目に真理音は溢れんばかりの母性らしきものでケーキを食べさせあげている。
「九々瑠ちゃん、可愛い」
「うう、真理音が優しい」
「九々瑠ちゃん、撫で撫でしてあげます」
「うう、真理音に撫でられて幸せ」
「九々瑠ちゃん、私も九々瑠ちゃんが好きですよ」
「私も。真理音がだーい好き。私と友達になってくれてありがとう」
ふたりの世界は主役が泣きつかれて眠るまで続いた。
「……真人くん。酔うと人って変わるんですね。私はこんなことのないように気を付けたいです」
はい、全然覚えてない無自覚ブーメラン発動。
「まあ、飲みたい時は言ってくれ。一緒にいるから」
「どういうことですか?」
膝枕しながら主役の頭を撫でる真理音はきょとんと首を傾げる。そんな姿を写真として残しながら続けた。
「真理音が斑目みたいになって誰彼構わずとか嫌だから」
前科もあるし。
「と言うことは、甘えるなら俺だけにしとけ。俺にだけ酔った姿見せろ、と言うことですね?」
「いちいち言い直さなくていい……恥ずいだろ」
「真人くんも可愛い……撫で撫でしましょうか?」
「いいよ。今は主役様に譲ってやってるから」
「そーよそーよ。今は、私が独占してるんだからぁ……!」
酔ってるのか、寝てるのか。どっちか分からない斑目が腕を突き出して物議したので俺と真理音は起こさないようにして小さく笑った。
撮影した写真と動画は真理音に気付かれないようにして斑目のスマホに送った。
誕生日プレゼントとしてさぞかし喜んでくれるだろう。
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