第13話 寂しがりはひとりで食事するのも寂しいらしい
夜、ソファに座りながら目的のないままテレビのチャンネルを切り替えているとチャイムが鳴り響いた。
こんな時間に誰だと思いながらモニター越しに確認すると二条さんが立っていた。
「はい」
「あ、に、二条です。少しお時間いいですか?」
あからさまに用事があるようだったので扉を開けた。
「こ、こんばんは、星宮くん。夜分、遅くにすいません」
「遅くって……まだ、七時だろ」
親睦会で二次会に付き合わされた時の方がこの一時間は遅かった。
「で、どした?」
「はい。その、星宮くんはカレーってお好きですか?」
「カレー? 普通に食べるけど」
「甘口と辛口、どっちがお好きですか?」
「どっちもいけるけど……甘口の方が好きかな」
「はぁ~良かったです」
ほっと安心したように声を弾ませる二条さん。何が良かったのだろう。もしかして、カレーは甘口派か辛口派のどっちが多いかアンケートでも受けて、答えが不安だったから確認しにきたのだろうか。
「用ないなら入るぞ?」
「あ、ま、待ってください」
すると、二条さんは後ろで手を組んだままもぞもぞと身体を揺らし始めた。そう言えば、さっきからずっと後ろで手を組んでるけど何か持ってるのか?
「あの、これ。お裾分けです。良かったらカレてください!」
と、言いながら二条さんは後ろで持っていたタッパーを差し出した。
「って、ちょっと待った。二条さん、カレてくださいってなんだ。もしかして、カレーだからギャグのつもりか?」
「はうっ。ち、違います。緊張して噛んだだけです。食べてください、です。星宮くんの意地悪!」
「なんだ、噛んだだけか。てっきり、笑かしにきてるのかと」
「もう、それ以上言わないでください」
これ以上言えば、また機嫌を損ねて斑目に伝われば俺の身が危険になる。ということで素直に言わないことにした。
「悪かったよ。てか、いいのか。俺、味の評価なんて出来ないぞ」
「いいですよ。作り過ぎてひとりだと食べきれなさそうでしたので。それに、私シェフじゃないですからね」
じいっと不服そうに見てくる。礼でも言ってもらいたいのだろうか。
「そういうことならありがたく貰うよ。ありがとな」
「はい!」
うん、礼を言ってもらいたかったようだ。多分、意識はしてないんだろうけどすごく嬉しそうにしてるし。
「食べる前に温めてくださいね。少し冷ましてからいれたので」
「あいよ」
「それでは、私はこれで」
ペコリと頭を下げて自分の家へと戻っていく二条さん。鍵を開けたところでもう一度振り返り、手を振ってきたので振り返しておいた。
俺も家に入り、二条さんから渡されたものを机の上に置く。
カレー、か。嬉しいんだけど、ご飯あったかなぁ。
ごそごそと確認しながら白米を探す。しかし、白米はどこにもなかった。チンして食べられる白米でさえ残っていなかった。
普段から、料理しないことが仇となったな。あ、うどんがある。もう、うどんでいいや。
うどんを湯がき、カレーをチンして上からかけた。
「うまっ!」
本当はカレーライスとして食べた方がより味が分かるのだろう。でも、カレーうどんでも十分に美味しいことが分かった。
「シェフじゃないとか言いながら普通にシェフレベルじゃん」
二条さんはやっぱりどこか抜けている気がした。
いざ、女の子の家のチャイムを鳴らすとなると緊張する。この前はいなかったからジュースを置いて帰ったけど今はいるようだし。
部屋の明かりが窓から漏れてきている。二条さんは確実にこの中にいるだろう。
ふぅ、と一息ついてチャイムを鳴らした。
「はい」と、二条さんの声が聞こえてくる。
俺は、緊張していることを悟られないようにしながら平常心を装った。
「星宮だけど」
「星宮くんですか!」
声が弾んだような気がするのは気のせいだろうか。
「分かってるだろ」
「ふふ、そうですね。ちょっと、待っててくださいね。すぐ出ます」
それから、すぐに二条さんが出てきた。何をしていたのかは知らないが急いで出てきたからだろう。少し頬が赤くなっている。
「星宮くんが訪ねてくるなんて珍しいですね。どうしました?」
「昨日のこれ返そうと思って。はい、一応洗っといたから」
綺麗さっぱりしたタッパーを二条さんに渡す。
「ありがとうございます。その……どうでしたか? お口に合いませんでした?」
「いや、すんげー美味かった」
「ほ、本当ですかっ?」
「うん。うどんにかけても分かるくらい美味かった。正直、ここまで美味いカレー初めてだ」
「そ、それは、褒めすぎですよ……って、うどんにかけたんですか?」
「うん。ご飯、なかったから」
「それなら、言ってくださればよかったのに。ご飯もお裾分けしましたよ?」
「いや、そこまでは迷惑かけられないし」
ほんの一瞬だけ、それも考えた。どうせなら、白米も欲しかった、と。まぁ、それは自分勝手過ぎるからすぐに消したけど。
「そうですよね……すいません。私の考えが足りなかったです」
「あーっと、一応聞くけどどんな考えだ?」
「どうせなら、私の家に招待して一緒に食べれば良かったです」
「うん、その考えに至らなくてほんとに良かったよ」
「どうしてですか? 星宮くんは私とご飯一緒は嫌ですか?」
「そういうんじゃなくて、簡単に男を家の中に入れるなってこと。斑目にも世の中は怖いって言われてただろ」
「でも、一度家に入ってもらってますし、星宮くんは変なことしないって信じてますから」
それは、どうなんだろう。男として見られていないのか、それとも本当に信頼されているだけなのか。どっちでもいいけど。
「あの、どうしました? 難しい顔してますよ?」
「いや、なんでもない。とにかく、カレー美味かった。ありがと」
「はい、どういたしまして」
「じゃ、俺はこれで」
「あの、星宮くん」
「何?」
「私は……その、星宮くんと一緒にご飯したいです。また。二次会、楽しかったですけどあの時は私ひとりで食べていましたので」
本当、どうして俺にはこうやって接してくるのだろう。こんなの、どう見ても男子が苦手な女の子って思えない。
「ひとりじゃ寂しいから、か?」
「そうですね。寂しいですし、一緒してください」
「なら、今度大学の食堂で一緒に食べるか。その、カレーのお礼もしたいしな」
「はい! 楽しみにしてますね!」
俺と二条さんはひとつ約束を交わした。いつになるかは分からない。けど、結構すぐにその日はくるんじゃないかと思う。
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