第8話 戦慄旋律(歌配信)

 ミミちゃんはめちゃくちゃ歌が上手い。

 歌配信のたびに『これが無料とか信じられない』とか『浄化された』といったコメントが流れ、歌姫や女神と呼ぶ声も多い。

 それに対し、あたしは絵に描いたような音痴だ。

 音程は外しまくるし、いきなり声が裏返ったりするし、なんとなくノリで声を張り上げてしまったりする。

 下手なりに向上心はあるわけで、いまから深夜の練習歌枠を始めるところだ。


「こんユニ~! さぁさぁ、みんなお待ちかねの歌枠だよ!」


 配信を開始して、元気よくあいさつ。

 さて、コメント欄の様子は――


『萌え声ジャイ●ンリサイタル始まったな』

『耐えられるかな』

『明日が仕事休みでよかった』

『一周回ってクセになるよね』

『わくわく(ガクブル)』

『待ってはないけど毎回最後まで見てしまう』


「みんなひどい! あたしが豆腐メンタルだったらここで配信終わってるよ!?」


 散々な言い草ではあるけど、なんだかんだ言ってもこうして配信を見てくれているのだから、あたしとしては感謝の気持ちしかない。


「それじゃあ、さっそく一曲目行ってみようっ。最近いろんなところで流れてるから、みんな知ってるんじゃないかな?」


 と前置きしつつ、カラオケ音源を再生する。

 アップテンポな前奏が流れ、歌い始めに備えて大きく息を吸う。


「~~~~♪ ~~~~~~♪」


 原曲を頭に浮かべつつ、難しいことは考えずにのびのびと歌う。

 歌詞を間違えたり噛んでしまうというミスもなく、一曲目を歌い終えた。


「ん~、やっぱりいい曲だよね。いままでの歌枠でも三回ぐらい歌ったけど、我ながら前より上達してる気がするっ」


『曲はいいよね』

『曲はいい』

『気のせいだよ』

『神曲』

『録音して聞いてみな』


「だから辛辣だって! もうちょっとオブラートに包んで! そしてできれば褒めて!」


『声かわいい』

『声優さんみたい』

『脳が蕩ける癒しボイス』

『ボイス販売待ってます』

『Vtuber界最高のカワボ』


「う、嬉しいけど、お世辞でもいいから歌も褒めてよぉ」


『かわいい』

『かわいい』

『いまのセリフもう一回お願いします』

『かわいい』

『かわいすぎる』


 意図しないところでコメント欄に賛辞の嵐が吹き荒れる。

 このまま粘っても歌については褒めてもらえなさそうなので、次の曲に行くことにした。


***


「――みんなありがと~! そろそろいい時間だし、次で最後にするね!」


 適度に休憩を挟みつつ歌い続け、配信開始から二時間ほど経過した。

 あたしの歌枠は、童謡で締めくくるのが最近の恒例となっている。


「今回の童謡は、『どんぐりころころ』!」


 誰もが知ってる童謡を歌い終えると、さっきまでと比べて手のひらを返したようなコメントが次から次へと流れていく。

 自分でも不思議だけど、童謡だけはきれいに歌い上げられているらしい。

 リスナーさんたちからは、歌唱力のパラメータを童謡に全振りしたと言われている。


「遅くまで付き合ってくれて、ほんとにありがとね! それじゃあみんな、おつユニ~!」


 あいさつをして、配信を終える。

 コントみたいなやり取りを含め、今日もすっごく楽しかった。

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