第231話 本気の勝負④
「というわけで、さっそく一戦目の第一レースを始めるよ~!」
あたしは赤チーム、ミミちゃんは青チームを率いる。
同じチームの人に攻撃アイテムは当たらないけど、トラップ系のアイテムは例外だから気を付けないといけない。
あと、すぐ隣に座っているミミちゃんに欲情して集中力を欠いてしまわないよう、自分をしっかり律することも大切だ。
「……んっ」
万全の状態で勝負に臨むため、ミミちゃんが姿勢を整える。
そのわずかな動作でミミちゃんの甘美な芳香がふわっと舞い、ゲームに向いていたあたしの集中力は一瞬にしてその対象を変えた。
そして、マイクも拾っていなかった小さな吐息。すぐ近くにいるからこそ聞こえたのはまさに役得の一言に尽きるけど、勝負に意識を向けるべき現状においては素直に喜ぶわけにもいかない。
勝負に全神経を注ぐというあたしの決意は、ミミちゃんの身じろぎ一つで呆気なく瓦解してしまった。
「ミミちゃん、絶対に負けないからね!」
改めて勝負に集中するため、ミミちゃんに宣戦布告をする。
「わたしだって、負けませんっ」
コントローラーをギュッと握り、力強い言葉を返すミミちゃん。
あたしたちのやり取りを受け、『すでに火花が散ってる』とか『レース前から熱い』といったコメントが流れてくる。
コメントを見ることによって配信中であるという意識が確固たるものになり、同時に理性もしっかりと働き始めた。
「コースは特に縛りとかないから、みんな好きなところを選んでね~」
正直なところ――やる気に満ちたミミちゃんがかわいすぎて、いますぐ抱きしめたい気持ちでいっぱいだ。
押し倒してキスをして、しばらく熱烈なハグを楽しんでからそのまま和室へ行って身も心も溶け合うような甘く激しい愛の営みに励んで夜を明かしたい。
比較的得意と言えるコースを選択しながら、本能が訴える願望を心の奥に仕舞い込む。
「やった、わたしが選んだコースですっ」
自分が選んだコースに決まって喜びをあらわにするミミちゃん。かわいい。
マズい、ことあるごとにミミちゃんのかわいさに心を揺さぶられてしまう。
とりあえず、深呼吸して落ち着こう。
すー、はー。
うん、ミミちゃんのいい匂いが鼻腔を通って脳から全身へと幸せが伝播していく。
っていうか気付いたらレース始まってる!
「あうっ、スタートダッシュ失敗した!」
とはいえ、気を抜いてしまった代償がスタートダッシュの失敗だけで済んだのは不幸中の幸いと言うべきかもしれない。
最後尾ながらも集団から離れているわけではなく、アイテムもしっかりと確保して使いどころを見極めながら前を目指す。
「よ~しっ、いい感じいい感じ!」
スタートで若干の遅れを取ったものの、中盤で巻き返して上位集団に食い込み、最終ゴールが迫るこの状況で二位をキープできている。
いま所持しているのが加速系のアイテムだったらこのまま一位を狙うところだけど、残念ながら手元にあるのは攻撃アイテムであり、目の前を走っているのは味方だから攻撃アイテムが意味を成さない。
最後の最後で波乱が起きるといったことはなく、無事に二位でゴールできた。
全員の順位が決まったことで、チームごとの合計得点が表示される。
なんと、リザルトを見ると上位陣の過半数をあたしのチームが占めている。
「幸先いいね、次もこの調子でいこ~!」
「そうはさせませんよ。次はわたしたちが上位を独占させてもらいます」
「ふっふっふっ、望むところだよ」
強者っぽく余裕綽々とした態度で答えてみたけど、逆に小物感が出てしまった。
まだ一戦目の第一レースが終わったばかり。
油断して足元をすくわれないように、気を引き締めて次のレースに臨もう。
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