第232話 本気の勝負⑤

 油断禁物、気を引き締めて勝ちに行く。

 そういう気持ちで臨んだ第二レースが、たったいま終了した。


「いけると思ったのに~!」


 天井を仰ぎながら漏れ出たその言葉には、悔しさがたっぷりと詰まっている。


「えへへ、有言実行させてもらいました」


 純粋な笑顔を浮かべて嬉しそうに言うミミちゃん。

 そう、まさに有言実行。

 最初のレースが終わった後にミミちゃんが言った通り、いまのレースはミミちゃんのチームが上位を独占する結果となった。

 ミミちゃんが喜んでいる姿を見るのは嬉しいけど、勝負している身としてはひたすらに悔しい。


「次は勝たせてもらうよっ」


「ユニコちゃんには悪いですけど、この勢いのまま次も勝たせてもらいます」


 第一レースはあたしのチームが上位を独占し、第二レースではミミちゃんのチームが同様の結果を残した。

 ポイント差は振り出しに戻り、一試合目の折り返しとなる第三レースを迎える。

 スタートからしばらくの間は特筆するようなハプニングこそ起きないものの、一位と最下位の差がそれほど大きく開かず目まぐるしく順位が入れ替わる展開が続く。

 中盤に差し掛かったあたりから集団は少しずつバラバラになっていき、ミスをして順位を落とせばアイテム抜きで巻き返すのが困難な状態になる。


「また会ったねミミちゃんっ」


「今回はよく会いますねっ」


 もちろん単なる偶然なんだけど、このレースではミミちゃんと並ぶタイミングがやけに多い。

 蹴落とすべき敵として、普段とは違う意味での激しいスキンシップを繰り返す。

 お互いに加速や攻撃のアイテムを持っていない状況なので、文字通りの体当たりで攻撃を仕掛ける。

 あたしとミミちゃんは二人そろって一位争いに参加できないままゴールし、チーム全体のリザルトが出るのを待つ。

 このわずかな待ち時間の間に水分を補給を済ませ、ついでにチョコを一粒食べ、ミミちゃんの太ももを撫で回し、リスナーさんに気付かれないよう音を立てずにミミちゃんの頬にキスをする。


「っ!?」


 いきなりのキスに驚き、慌ててこちらを見るミミちゃん。

 あたしは意味ありげな微笑みを浮かべつつ視線を正面に戻してから、自分の頬を指差す。

 期待しながらチラッと視線を隣に向けると、ミミちゃんは照れて真っ赤になった顔をこちらに近付け、あたしの頬に優しくキスしてくれた。

 ちょうどその時、全員がレースを終えてリザルトが発表される。


「思ってた以上に接戦だね~」


「そうですね」


 ここまでの二レースと打って変わって、どちらかのチームが上位を占めて大きくリードするといったことは起きていない。

 一位は青チームの人だけど、二位と三位は赤チームだったりして、チームのポイント差は無いようなもの。

 そんなリザルト画面を見るあたしとミミちゃんは、平静を装いながらも直前にイチャついていた影響で顔がほんのり火照っている。


「次は第四レースってことで、一戦目の最終レースになるよ! 勝負はまだ続くけど、このメンバーで走るのは最後! みんな、次のレースで燃え尽きるつもりで走ってね!」


 先に勝ち星を挙げるのは、あたしか、それともミミちゃんか。

 現状かなりの僅差で、リザルトを見る限り実力は全員同じぐらい。

 結果がどうなるか予想はできないけど、負ける気は微塵もない。

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