第233話 本気の勝負⑥
一戦目のラストレースが始まった。
スタートダッシュを無事に成功させ、アイテムを活用し、比較的難易度の低いショートカットを使って先頭に躍り出る。
「最後は自分で一位を取ってチームを勝たせるよ~!」
凡ミスしないよう気を付けつつ、できる限りコースのイン側を意識して進む。
序盤で先頭を走るのはあまり意味がないとも言われているけど、あたしはこの順位をキープしたままゴールするつもりで走っている。
「一位でゴールするのはわたしですっ」
「なっ!?」
油断していたつもりはなかったけど、カーブの多い箇所でミミちゃんに追い付かれてしまう。
いや、もうすでにあたしが追う側になっている。
「まだまだ!」
一度は抜かれたものの、すぐさま有利な位置取りを活かして一位を取り戻す。
ホッとする間もなく再び抜き返され、そしてあたしもさらに抜き返す。
一位と二位の入れ替わりを目まぐるしい速度で繰り返していると――
「あれ? この音って……」
「あっ」
一位を狩るためだけに存在するアイテムが後方から飛来し、現在の一位であるミミちゃんと、ほぼ真横を走っているあたしをまとめて攻撃する。
二人一緒に大きく順位を落とすことになり、必死に前を目指す。
「ミミちゃんってあそこのショートカットできる?」
「何回か練習したんですけど、成功したことはないです」
いま話しているのは、序盤に使ったのとは別のショートカット。
こちらは相当難しく、どんなに上手い人だろうとほんの少しでも気を抜けば失敗すると言われている。
「ということは、あたしが成功すればミミちゃんに勝てるってことだよね」
「できるんですか?」
「失敗したら、その時はその時ってことで!」
件の場所が近付き、あたしは難易度高めのショートカットにチャレンジする。
前に解説動画で見たルートを通り、先ほど入手して温存しておいた加速アイテムを適切なタイミングで使う。
「ここで……あっ!」
かなり難しいショートカットに挑戦して華麗に成功し、当初の目論見通り一位でゴール――という劇的な結末を迎えられる可能性は、いまこの瞬間にゼロとなった。
ハンドルを切るタイミングをわずかに誤り、その些細なミスがコースアウトという大きなタイムロスを招く。
ついさっきまで隣を走っていたミミちゃんにも大きな差をつけられ、あたしは意地の走りで最下位を免れながらも上位に食い込めないままレースを終えた。
これで一試合目の全レースが終了し、ここまでの総合得点が発表される。
結果は僅差でミミちゃんチームの勝利。
ちなみに、あたしがショートカットに成功するか、挑戦せず順路に従って走っていれば勝っていた。
「うぅ~っ、あとちょっとで勝てたのに! みんなごめん!」
『ドンマイ』
『よく頑張った』
『惜しかったよー』
『次につなげましょう』
「ユニコちゃん、次も勝たせてもらいますよ」
「こうなったら、レース中におっぱい揉んで邪魔するしかない!」
「な、なに言ってるんですかっ。そもそも、そんなことしたらユニコちゃんも操作できませんよ」
「それはほら、チームメイトに頑張ってもらうってことで」
『小汚い盤外戦術と完全な他力本願……』
『ミミちゃん頑張れー』
『これはミミちゃんを応援せざるを得ない』
『ユニコちゃんひどい』
「わ~っ、いまのなし! 真面目に頑張るから! 見損なうのはもうちょっと待って!」
「大丈夫ですよ、リスナーさんたちは冗談だって分かってくれてますから」
「え? さっきの発言、撤回はするけど冗談のつもりじゃなかったよ?」
「ユニコちゃん……」
『ユニコちゃん……』
『ユニコちゃん……』
『ユニコちゃん……』
あたしの評価がとんでもない勢いで下がっていくのを感じた。
名誉挽回するためにも、次の試合では絶対に勝ちたい。もちろん、正々堂々戦って。
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