第234話 本気の勝負⑦
一試合目を終えて、次の試合に移るべく再びマッチングを行う。
あっという間にメンバーがそろい、チーム分けをしてコース選択画面へ。
「よ~しっ、この試合は四レースともあたしが一位を取っちゃうよ!」
「そうはさせませんよ、一位になるのはわたしです」
「ミミちゃんが闘志をむき出しにしている……!」
あたしが想像しているよりも、ミミちゃんはあたしに腕枕したいと思ってくれているのかもしれない。
負けて腕枕してもらうのも最高に幸せだけど、だからと言って勝ちを譲る気は微塵もない。
「さっきは最後のレースで失敗しちゃったけど、もしまた同じ状況になってもあたしは諦めずに挑戦するよ! それが配信者のチャレンジ精神ってやつだもん! 失敗覚悟で挑むことが大事なんだよ!」
失敗に終わったとはいえ、さっきのショートカットは小さなミスさえなければ成功していた。
どう操作すればいいのかも分からないような難易度のショートカットは別として、できそうだと感じたらどんどん試してみるべきだと思う。
「さすがです、ユニコちゃん。じゃあ、ショートカットしようとしているユニコちゃんを見かけたら、後ろから攻撃させてもらいますね」
「ミミちゃん!? 珍しく鬼畜すぎるよ! そこは優しく見守って、できれば甘やかすような声で頑張れって応援してよ!」
「いまは敵ですから応援はできませんけど、お互い全力で頑張りましょう」
「うんっ!」
我ながら単純だと思うけど、全力で頑張ろうという言葉で力が湧いてきた。
好きな人に言われたら、やる気が出るに決まってるよね。
まぁ、今回はその好きな人を負かすために頑張るんだけど。
「それでは、二試合目の第一レーススタート!」
コースが決まってレース画面に移行すると同時に、口頭で二試合目の開始を告げる。
やがてレースが始まり、スタートダッシュを危なげなく成功させてアイテムもしっかり確保。
背後からの攻撃に気を付けつつ走っていると、後半に差し掛かったところでミミちゃんと並んだ。
「ミミちゃん、のんびり走って一緒にゴールしようよ~。大丈夫、絶対に抜け駆けしないからっ」
「えーっと……ごめんなさいっ」
「あっ、上手い!」
ミミちゃんは加速アイテムを使ってショートカットを行い、あたしとの距離を広げる。
いまのショートカットは加速アイテム必須だから、妨害アイテムしか持っていないあたしはそもそも挑戦できない。
マラソンの時に絶対抜け駆けする人の常套句を言って混乱させようとした罰が当たったのか、普通に走ってたら追い付けないほどの差をつけられてしまった。
「でも、勝負はまだ終わってないよ!」
様々なアイテムやショートカットが存在するこのゲームなら、ここからいくらでも巻き返せる。
現にこの先の急カーブの途中にはアイテムを要しないショートカットポイントがあり、上手くいけば先頭争いにも加われる。
決して簡単ではないけど、挑戦するに決まって――
「ひぁっ!?」
「あれ?」
ガードレールのない急カーブで一位と二位の人が一緒にコースアウト。
続く三位のミミちゃんはショートカットに挑戦したものの、ミスによりコースアウト。
「……勝てる!」
ショートカットのポイントを素通りし、無難に順路通りコースを走る。
そして、コースアウトから復帰した三人が背後に迫るのを感じながら、あたしはゴールラインを越えた。
「やった~っ、一位! やっぱりあたしって最強だね!」
『配信者のチャレンジ精神はどうした』
『ショートカットから逃げるな』
『ショートカットに挑戦しろ』
『チャレンジ精神とは』
「うるさ~い! 勝ったんだからいいじゃん! ここは『すごい!』とか『おめでとう!』でコメント欄を埋め尽くしてよ!」
『すごい』
『すごい!』
『おめでと』
『すごいですね』
『おめでと~』
『すごい』
『すごい』
『おめでとうございます』
『すごい!』
「う、うわ、なんか逆に怖くなってきちゃった……。ごめんみんな、やっぱり好きにコメントしていいよっ」
『ショートカット使え』
『失敗覚悟で挑戦してください』
『一位になるより大事なことがあるはず』
『ショートカットに失敗して泣き喚く姿が見たい』
「辛辣すぎる! みんな両極端だな~。ミミちゃんもなにか言ってあげてよ」
「ユニコちゃん、ショートカットに挑戦するんじゃなかったんですか?」
「ミミちゃんもそっち側!?」
みんな本気で責めてるわけじゃないってことは分かってるけど、次はもっと積極的にショートカットを狙うことにしようかな。
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