第116話 センシティブ発言禁止トーク
早朝にノベルゲームの実況を行い、半日ほど経って夜を迎えたいま、本日二回目の配信を始めようとしている。
「よ~しっ、それじゃあ始めよっか」
「はい、いつでもオッケーですっ」
場所は自室、隣にはミミちゃん。
配信前にシャワーを浴びたため、とてつもなくいい匂いがしてドキドキする。
和室に移動する手間を惜しんでいますぐ抱きしめて温もりと香りを味わいながら優しく押し倒して事に及びたい――という欲求を心の中に圧縮保存しつつ、あたしは開始のあいさつを告げるべく口を開く。
「みんな、こんユニ~! 今日はミミちゃんとのコラボ! サムネにも大きな文字で書いてある通り、センシティブ発言禁止トークをお届けするよ!」
『こんユニです』
『こんユニ』
『こんユニ~』
『ユニコちゃんには無理でしょ』
『ミミちゃんのセンシティブ発言はむしろ聞いてみたいかも』
「定義はあいまいだから、細かいところの判定はフィーリングで! 一時間の中でアウト判定を受けた回数が多い方の負けだよ~」
「勝者は賞品として、配信後にアイスを買ってもらえるんです。今日も蒸し暑い夜になりそうですから、食べるのが待ち遠しいですね」
『珍しく強気だ』
『ミミちゃん気が早くて草』
『これほどまでに結果が分かり切った勝負も滅多にない』
『ユニコちゃん、負けると思うけど応援してるよ~』
『ご褒美が微笑ましい』
コメント欄を見る限り、ほぼ全員があたしの敗北を予想――いや、確信している。
というかリスナーさんに限らず、対戦相手であるミミちゃんも明らかに自分が勝つと思っている様子だ。
まぁ、日頃の言動を考えれば無理もないけども。
「さてとっ。難しいルールもないし、前置きはこのぐらいにして本番に移ろう! それじゃあ、勝負開始~!」
「ふふっ、勝たせてもらいますよ」
自信満々に意気込むミミちゃん。
一方的にあたしが不利であるこの勝負を持ちかけたのは、他ならぬあたしだ。
申し訳ないけど、素直な戦い方をするつもりは最初からない。
勝負のポイントは、センシティブな『単語』ではなく『発言』としたところ。
「ところでミミちゃん、たくさんの貝殻を用意して、その中から一対の貝殻を見付ける遊びの名前ってなんだっけ?」
「へ? えっと……貝合わせ、ですよね」
ミミちゃんは少し考えた後、自信なさげに答えた。
「ミミちゃんアウト!」
「えっ!? な、なんでですか!?」
突然のアウト判定に、ミミちゃんが激しく動揺する。
純粋な気持ちで答えてくれたミミちゃんには本当に悪いけど、言うまでもなくこれはあたしが仕掛けた罠だ。
「BANされちゃうから詳しくは言えないけど、現代で貝合わせと言えば別の行為を連想しちゃうからね~」
少なくともあたしは別の方が頭に浮かぶし、あたしとミミちゃんにとっては慣れ親しんだ行為でもある。
いろんな意味で危ないから、間違っても配信では言えないけど。
仮に今後ミミちゃんとの関係を公表する機会ができたとしても、さすがにそこまで踏み込んだ情報を発信するつもりはない。
『なんて卑怯な手を……』
『なるほど、そういう手もありなのか』
『完全に悪役のやり方だけど面白くなってきた』
『こうなると勝敗が読めないかも』
『策士と言えなくもない』
「この勝負ならユニコちゃんに圧勝できるって思ってましたけど、これは気を引き締めないといけませんね。ユニコちゃん、負けませんよっ」
闘志を燃やすミミちゃんに、あたしは余裕たっぷりな笑みを返す。
ミミちゃんの勝利が確信された状態で始まった勝負は、イカサマじみた奇策によって結果が読めなくなった。
気になったコメントを拾ったりしつつ主に最近あった出来事について雑談を繰り広げ、その中で互いにアウトカウントを重ねていく。
とは言っても、ミミちゃんのアウトに関しては本来ならセンシティブでもなんでもない発言だった。
アウト判定について明確な基準が定められていたら、もはや勝負にすらならなかったはずだ。
「――っと、そろそろタイムアップかな。やっぱり一時間なんてあっという間だね~」
「もし次回があれば、二時間でもいいかもしれませんね」
「次は絶対負けないよ~!」
途中までは若干あたしが優勢だったんだけど、最後の方でお風呂の話になってから一気に逆転され、結果的に惨敗を喫してしまった。
強いて敗因を挙げるなら、お尻について語り始めて歯止めが利かなくなったことだろうか。
『楽しかった!』
『お疲れ~』
『またやってほしい』
『アーカイブでも楽しませてもらいます』
『ミミちゃんにアイス買ってあげてね』
なにはともあれリスナーさんたちにも満足してもらえたので、この企画を立ててよかった。
センシティブ発言禁止トークの第二回もいいけど、他にもこういうトーク系の遊びは今後も積極的に提案していきたい。
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