第115話 夏と言えば水着だよね

「みんな、こんユニ~! 今日はお待ちかねの水着企画だよ!」


『待ってました』

『こんユニ~』

『水着だ水着だ』


 水着という言葉に、コメント欄が盛り上がる。

 水着と言っても新衣装の発表ではなく、簡潔に言えばみんなでファンアートを鑑賞する企画だ。

 数日前から水着をテーマにしたファンアートを募集し、期間内に投稿されたイラストの中からあたしが選ばせてもらった。

 主にセンシティブ方面に気を付けて十数枚ほどピックアップさせてもらい、作者さんの許可を貰って今日に至る。

 夏と言えば……に続く言葉は十人十色、千差万別の意見があると思う。

 あたし自身、海とかプールとかスイカとか花火とか、同時にいくつも浮かんでくる。

 しかし、今日この配信中は『夏と言えば水着!』という意見を絶対のものとさせてもらう。


「もったいぶって三十分ぐらい雑談しようかとも思ったけど、あたしが待ち切れないからさっそく一枚目を貼るね! はい、ど~ん!」


 配信画面に、一枚のイラストが表示される。

 そこに描かれているのは、水着売り場を訪れたあたしとミミちゃんの試着室前でのやり取り。

 スク水を着たあたしが、瞳を爛々と輝かせながらスイカ柄の水着をミミちゃんに勧めている。


「楽しそうな雰囲気がギュッと凝縮されてる素敵なイラストだよねっ。実際にスイカの水着が売ってたら、ミミちゃんに勧めるだろうな~」


『上手すぎる』

『かわいいね』

『これは神絵師』

『タペストリーにして販売してくれないかな』


 気になる場所を拡大して、全体に散りばめられた作者さんのこだわりポイントをつぶさに観察していく。

 ペース配分を考慮して一枚あたり五分程度を予定していたけど、全然足りなかったので倍の十分に変更することになった。

 もったいぶって三十分雑談という考えを放棄して正解だったと、改めて自分の判断を褒める。


「さてさて、続けて二枚目に行くよ~。今度は雰囲気がガラッと変わって、あたしやミミちゃんの故郷である異世界を舞台にしたイラストだねっ」


 次に表示されたのは、自然に囲まれた湖のほとりにてビニールシートを敷いて水着姿で日光浴をするあたしとミミちゃんのイラスト。

 あたしはフリル付きのワンピースタイプ、ミミちゃんは白を基調としたパレオ付きビキニを身に着けている。

 テーマである水着はもちろん、背景の描き込みも非常に細かい。


「光の表現がすごく幻想的で、この画風なら裸でもセーフだったり……いやいや、さすがにマズいか」


『アウトだよw』

『水着の企画なのに裸のこと考えてる』

『でも確かに美術の教科書に載っててもいいレベル』

『このイラストみたいな、ファンタジー世界と自分たちにとって身近な物の組み合わせ好き』


「あっ、そうだ。みんなも気付いてるかもしれないけど、実は背景の森にユニコーンが隠れてるんだよ~」


 あたしという同類の気配を感じたのか、はたまた二人の美少女に惹かれたのか、神々しくもかわいらしいユニコーンがチラッと姿を覗かせている。


「間髪入れず、三枚目! これは完全にあたしの願望――もとい、本来の姿が描かれた一枚だよ!」


 十分間の経過に伴い、画面に映すイラストを変更。

 三枚目は背景がなく、シンプルに水着姿のあたしだけが描かれている。


『ん?』

『なんかおかしくない?』

『アプリで加工しました?』

『どこの美人だ?』


 先ほどまでとは打って変わって、語尾に疑問符が付いたコメントが大量発生した。

 なぜだろう。

 そのイラストの中では、高身長で胸とお尻が大きくてお腹がキュッとくびれた、グラビアモデル顔負けのナイスバディな美人であるあたしが色っぽく微笑んでいるというのに。


「みんなどうしたの? なにか気になることでも?」


『え? ツッコミ待ち?』

『なるほど、ユニコちゃんが見ている夢ってことか』


 リスナーさんたちから送られてくるコメントは、イラスト自体を褒めるものと、そこに描かれている美人があたしと完全な別人であることを指摘するものに二分化されている。

 まぁ、確かに実物と比べたら身長はもちろんバストやヒップも数十センチぐらい違うけど、そんなの些細な差だよね。

 今後新衣装が追加される際には、ぜひともこのセクシーバージョンの採用を視野に入れてもらいたい。

 ダメかな?

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