第187話 かき氷を食べよう!③
少な目とはいえ二杯のかき氷を食べた後では、一杯目を食べる前と比べて期待感や高揚感はさすがに弱まってしまうんじゃないか。
なんてことを考えていたものの、実際はそうならなかった。
三杯目に向けて、あたしとミミちゃんは協力して意欲的に作業を進めている。
「イチゴの準備できました」
ミミちゃんが持つお皿には、トッピングとして使う丸ごとのイチゴとスライスされたイチゴが並んでいる。
「ありがと~、ちょうど氷も削れたよ!」
まだ余裕があるとはいえかき氷の食べ過ぎは体に悪いということで、次は一杯を二人で分けて食べることになった。
体調を考慮しての案だったけど、改めて考えると一杯のかき氷を一緒に食べるのってめちゃくちゃカップルっぽい気がする。
三杯目のかき氷は単にシロップをかけるだけではなく、イチゴをトッピングして、さらに練乳もかけるというやや贅沢な一品。
かき氷の頂をスプーンで少し潰して、そこに丸ごとのイチゴを二粒置く。
シロップを回しかけたら、スライスしたイチゴを並べて氷の表面を覆う。
簡単な作業なので一人でやっても効率は大して変わらないけど、二人でやることによって満足感や楽しさは計り知れないほどに大きくなる。
「子どもの頃は練乳がおいしすぎてチューブから直接飲みたいって思ってたな~」
「わたしもです。ユニコちゃんは、思うだけじゃなくて実際にやって怒られてましたよね」
「さ、さすが幼なじみ、詳しいね」
十年ほど前、あたしの家での出来事だ。
いまみたいにミミちゃんとかき氷を食べていて、お母さんが電話で席を外した隙に練乳を飲もうとしたら見つかって怒られた。
「あたしも立派な大人だし、さすがにあんなことはもう――あっ!」
量に気を付けつつ練乳をかけていると、不意にとんでもないアイデアが脳裏に浮かんだ。
天啓とも言える閃きに、思わず手が震える。
「ユニコちゃん、どうしたんですか?」
「ミミちゃんに練乳をかけて舐めたい……」
「え?」
「ミミちゃんに練乳をかけて舐めたいっ!」
キョトンとするミミちゃんに、あたしは直前に発した言葉を力強く繰り返した。
「な、なにを言ってるんですか?」
「あっ、ご、ごめん、自画自賛したくなるぐらい素晴らしすぎるアイデアだったから、つい」
あたしはかき氷と無関係な天才的アイデアをいったん頭の片隅に移動させ、深呼吸をして気持ちを切り替える。
夏の暑さのせいか、脳内がいつにも増してピンク色に染まりやすくなっているらしい。
ほっぺた、おっぱい、お腹、腋もいいし背中も……いやいや、いまは考えちゃダメなんだって。
再び深呼吸を挟み、どうにか正常な思考を取り戻す。
「ビックリさせちゃったお詫びとして、一口目はミミちゃんがどうぞ!」
「そんな、せっかくだから一緒に食べましょうよ」
「一緒にって、スプーンの左右から同時に食べるってこと? さすがに食べづらくない?」
「そういうつもりじゃなかったんですけど……あっ、お互いに食べさせ合うのはどうですか?」
「いいねっ!」
あたしたちは互いにスプーンを持ち、少量のかき氷と丸ごとのイチゴをすくって相手の口元へと運んだ。
イチゴを落とさないよう大きめに口を開けて、パクッと頬張る。
イチゴが持つ豊かな甘みとほのかな酸味が口いっぱいに広がり、練乳の濃厚なコクとかき氷の冷たさが混然一体となって感動的なまでのおいしさを生み出している。
「ん~っ、おいしいっ!」
「最高ですっ」
あまりのおいしさに、あたしもミミちゃんも思わず口元が緩む。
「ミミちゃんっ。はい、あ~ん」
一口目をしっかりと味わった後、すかさず二口目を差し出す。
「ユニコちゃんも、あーん」
こうして、三杯目のかき氷は最初から最後までお互いに食べさせ合うことになった。
次は濃いめに作ったカル●スをシロップ代わりに使って小粒のラムネをたくさんトッピングする予定だったんだけど、お腹の調子も考えて今回はここで終わることに。
メンバーが集まる時に、いろんなかき氷を用意してみんなで食べるのも面白いかも。
というより、大型コラボの中で企画の一つとして使えるのでは?
「ミミちゃん、いいこと思い付いた!」
ミミちゃんに話してからメンバーのみんなにも相談した結果、かき氷の件は正式に企画として採用されることとなった。
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