第40話 シュールでカオスな茶番劇②
「自己紹介も終わったところで、本番に行ってみようっ」
若干の恥じらいを残しつつ、ミミちゃんがあたしになりきって話を進める。
「今日はコメントを多めに拾っていくので、どんどんコメントしてくださいね」
『何時間ぐらいやる予定?』
『今日いつもと声違くない?』
あたしの発言を皮切りに、あいづちや要望、質問のコメントが増える。
とりあえず、目に付いた質問から答えていこう。
「最低一時間で、場合によっては長くなりま――なるよっ。できれば最後まで見てほしいけど、眠たくなったら我慢せずに寝てね~」
ミミちゃんは敬語を使う機会の方が圧倒的に多いから、ふとした拍子にポロッと敬語で話しそうになっている。
慌てて修正する様子が、なんともかわいらしい。
台本の用意を冒頭の部分だけに限定したのは、我ながらいい判断だった。
「声が違うっていうコメントが見えましたけど、わたしたちはいつも通りですよ。そうですよね、ユニコちゃん?」
「うんうん、いつも通りだよねっ」
今回は話し方だけを本人に寄せているけど、次に同じような企画をする際には声真似を取り入れるのも面白いかもしれない。
『なるほどー』
『気のせいだったか』
『睡眠より配信の方が大事だから寝ません』
『かわいい』
「それにしても、ユニコちゃんの慎ましやかなおっぱいは本当にかわいらしいですよね」
「ゔぇっ!?」
『!?』
『急にどうした』
『!?』
『え?』
『ミミちゃんはそんなこと言わない』
『まるでどこぞのユニコーンが乗り移ったような発言だ』
あたしの唐突かつ突飛な発言に、ミミちゃんもリスナーさんも激しく動揺している。
ミミちゃんが言いそうにないセリフであることは百も承知だけど、せっかくの機会だからあえて言わせてもらった。
一応は闇神ミミが一角ユニコを褒めているという構図になるので、リスナーさんがこのワンシーンのファンアートを描いてくれることを心の中で祈っておく。
「みっ、みみみっ、ミミちゃんのおっぱいも、かわいいと思うよ!」
あたしになりきって少しエッチなことを言おうとしたものの、恥ずかしさからか声がわずかに上ずっている。
ミミちゃんには悪いけど、配信的には取れ高の一つとしてカウントしてもいいんじゃないだろうか。
『ユニコちゃんの照れ顔って何気にレアだよね』
『ミミちゃんニッコニコで草』
いま流れたコメントにあったように、あたし――ユニコの照れ顔は普段の配信ではあまり見れない。
せっかくかわいい表情なのだから、今日ぐらいはもっとリスナーさんたちに見てもらいたい。
となれば、重ね重ねミミちゃんには悪いけど、もう少しだけ、いじらせてもらおうかな。
「ユニコちゃん、今日はなんだか様子が変じゃないですか?」
「そっ、そんなことないよっ、いつも通り元気だよ!」
「そうですか? 落ち着きがないように見えるんですけど」
「いつも通りだよ!」
ミミちゃんっ!?
そりゃ確かにあたしは比較的騒がしい方だと思うけど、落ち着きはあると思うよ!?
「ちょっ、ミ――じゃなくてユニコちゃん、普段はもっと落ち着いていますよね?」
『草』
『確かにいつも落ち着きがないかもw』
『なぜかミミちゃんが焦ってますね~』
『これは攻守交替かな』
「落ち着いてないもん! あたしは常に暴れ回ってないと気が済まないタイプだから!」
まずい。いじるタイミングを誤ったかもしれない。
おっぱいの件で恥ずかしがっているところに追い打ちをかけたから、あたしになりきろうとする意志と羞恥心が相乗効果を生んで、ミミちゃんがよく分からないテンションになっている。
「常に暴れ回っていたらすぐにスタミナ切れを起こしちゃいますよ。とりあえず、深呼吸をして落ち着いてください」
まさかあたしが冷静になるよう促す立場になるとは、ほんの数秒前は考えもしなかった。
「平気平気、あたしのスタミナは無尽蔵だから! この前だって、ミミちゃんと――むぐぅっ!?」
嫌な予感を覚え、あたしは反射的にミミちゃんの口を手で塞いだ。
確証があったわけじゃないけど、この段階でミミちゃんの発言を封じたのは正解だったと思う。
いまの文脈から推察するに、あのまま放っておいたらアーカイブに残せなくなる類の言葉が飛び出ていた可能性が極めて高い。
「す、すみません、いきなりなんですけど、お水を飲む時間を少しくださいっ」
『いいよー』
『ゆっくりどうぞ』
『水分補給しっかりね』
『お水飲んでえらい』
「ありがとうございます。ほらユニコちゃん、お水ですよ」
この前エッチした時の話をリスナーさんたちに知られるわけにはいかないので、ひとまずミミちゃんが冷静さを取り戻すまで少し間を置かせてもらおう。
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