第41話 シュールでカオスな茶番劇③

「さっきユニコちゃんが言いかけていたことですけど、あれは近所の公園でジョギングした時の話ですよね?」


 小休憩を挟んだ後、あえて話題を掘り返してフォローを入れておく。

 あたしたちがガチで付き合っていることはあくまで内緒なので、噂の信憑性を高める要素はある程度排除しておかなくてはならない。


「うんっ、そうだよ~。自分で言うのもなんだけど、あたしってけっこうスタミナある方だからねっ」


 すっかり冷静さを取り戻したミミちゃん。

 まだそんなに時間は経っていないけど、二人とも相手になりきって話すことに慣れてきた気がする。

 ミミちゃんも調子が出てきたようで、活き活きとあたしになりきっている。


『ジョギングの話もうちょっと聞きたい』

『やっぱりプライベートでも仲いいね』

『そう言えば一緒に住んでるんだっけ』


「配信活動をしていると運動不足になりやすいので、たまに二人で一緒に歩いたり走ったりしてるんですよ」


「帰ってシャワーを浴びてから飲むビールがおいしいんだよね~っ」


 さすがミミちゃん、あたしのことをよく理解しているがゆえの発言だ。


『運動してえらい』

『私も最近まったく運動してないなー』

『運動後のビールいいよね』

『おっさんみたいなこと言ってるのになぜかかわいい』

『飲みすぎには気を付けてね』


「ビールと言えば、というわけでもないですけど、リスナーさんたちは好きな飲み物ってありますか?」


「いい質問だね、ミミちゃんっ。あたしも知りたい!」


『ミネラルウォーター』

『日本酒かなぁ』

『グレープフルーツジュース』

『青汁』

『レモンティー』

『麦茶ですね』

『梅昆布茶』

『フルーツオレ』

『ジャスミンティー』

『牛乳と豆乳が同率一位かも』


「へ~っ、ちょっと意外かも! みんな思った以上に答えがバラバラだね――じゃなくて、バラバラですねっ」


 なりきって話すことに慣れてきたとか思っていた矢先に、つい素のまま反応してしまった。

 飲み物の被りが少ないことはもちろん、好きな飲み物で青汁を挙げる人がいることも、個人的には驚きポイントだ。

 あたしももう少し大人になれば、ブラックコーヒーや青汁をおいしくいただけるようになるのだろうか。

 いまでもビールの苦みなら、おいしいと感じるんだけど。


***


 ところどころで動揺やら混乱やら混沌やらを引き起こした茶番劇も、気付けば開始から二時間が経過していた。

 予想よりも反応がよかったので、またいずれ同様の企画を行うのもありだ。

 ひとまず今日のところは、そろそろ終わりにするとしよう。

 あたしはミミちゃんとアイコンタクトを交わし、冒頭と同じ茶番を開始する。


「あっ。ユニコちゃん、ボールペンを落としましたよ」


「ホントだ、すぐ拾うねっ」


「いえいえ、ここはわたしが――」


 雑にもほどがある無理やりな展開を繰り広げ、二時間前にも使ったSEを再び鳴らす。


「いたたた――あれ? これって、もしかして……?」


「「もとに戻ってる!」」


『再びの茶番w』

『冒頭以上にめちゃくちゃな流れで草』

『もとに戻れてなによりです』

『これリスナーは見てないってことにした方がいい感じ?』


「みんな~っ、今日の配信も楽しんでくれた?」


『楽しかった!』

『もちろん』

『放送終わったら即アーカイブ見ます』

『またやってほしい』

『楽しかったよ~』


「普段の配信と比べて、なにも変なところはありませんでしたよね?」


『な、なかったよー』

『本当のことを言ったら消されそうだ』

『二人の声が入れ替わってたような気がするけど気のせいに違いない』


 ミミちゃんの質問に、何人かの人が真理に至った答えを返している。

 あたしがミミちゃんとして、ミミちゃんがあたしとして雑談を交わす。

 ふとした思い付きで始めた企画だったけど、大成功だと胸を張ってもいいんじゃないだろうか。


「遠くないうちにまた同じような企画をやるから、みんな楽しみに待っててねっ」


 あたしがそう言うと、コメント欄に期待と喜びの言葉がどんどん流れてきた。

 最後はいつも通りに締めのあいさつをして、今日の配信も無事に終了。

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