第42話 ホラーゲームの一番怖いところ
あたしとミミちゃんは、ついさっきまで同じゲームの実況配信をやっていた。
最近流行っているホラーゲームで、引き込まれるようなストーリー、恐怖心をあおる演出、絶妙な難易度に調整された謎解き要素など、実に魅力的な作品だ。
物語は希望に満ちた終わり方をしたものの、あたしの心にまとわりつく言い知れぬ恐怖は未だ残ったまま。
そして、それはミミちゃんも同じわけで……。
軽く話し合った結果、お風呂はもちろんトイレに行く時も共に行動し、今夜はあたしの部屋で一緒に寝ることになった。
就寝前ながら、部屋はもちろんリビングや廊下の明かりもつけっぱなしだ。電気代がもったいないのは百も承知だけど、消したらトイレに行けなくなる。
「もしいまからホラー映画の同時視聴配信しろって言われたら、ミミちゃんならどうする?」
おしゃべりをしながら、眠気が来るのを待つ。
ミミちゃんと一緒ということもあって精神状態は安定しているものの、この状況で停電したら間違いなく即発狂してしまう。
「断固として拒否しますね。一ヶ月後ぐらいなら話は別ですけど、いまからは絶対に無理です」
「だよね~、あたしも同じ。この部屋から出るって考えただけでも怖いもん」
「ユニコちゃん、トイレに行っておかなくて大丈夫ですか?」
「うん、さっき行ったばかりだからね」
「行きたくなったら、我慢せずいつでも言ってくださいね。ちゃんと中まで一緒に入りますから」
「ふふっ、ありがと」
穏やかで和やかな、まったりとした雰囲気。
これほどまでに居心地のいい状況というのは、他に思い付かない。
「ミミちゃん、寝れそう?」
「残念ながら、まだ無理っぽいです」
「だよね」
深夜に配信している日を除き、普段ならもう就寝している時間。
にもかかわらず、眠気をまったく感じない。
理由はもちろん、未だにホラゲーの呪縛から解き放たれていないからだ。
急に扉が開いたらどうしよう、ベッドの下でなにかが動いたらどうしよう、窓の外に人影が見えたらどうしよう、どこからともなく呻き声が聞こえたらどうしよう。
これまでの経験からして、ぐっすり眠って一夜明ければ嘘のように恐怖心が消える。
ただ、毎度のことながら、眠るまでに時間がかかってしまう。
「しりとりでもしますか?」
「いいね、賛成っ」
「無難にしりとりの『り』から始めますね。リンゴ」
「ゴーヤ!」
ゴーヤチャンプルー食べたくなってきた。
「野菜」
「イカ」
「柿」
「キャベツ」
特にルールは決めていないんだけど、奇しくも食べ物縛りのような流れになっている。
しりとりは想像以上に長く続き、二人ともうつらうつらとしてきた。
いまなら眠れるかもしれないと瞳を閉じた瞬間――
「ひっ!」
天井からグロいモンスターが落ちてくるイメージが脳裏に浮かび、体がビクッと震える。
不幸中の幸いなのは、すぐ隣にミミちゃんがいて、抱きしめることによって即座に心を落ち着かせられたことだ。
もし一人きりだったらと考えただけで、背筋がゾッとする。
どさくさに紛れてミミちゃんのおっぱいに顔を埋め、柔らかさと温もりと匂いを存分に堪能させてもらう。
あたしとミミちゃんが眠りに落ちたのは、空が白み始めたのを確認した後だった。
ホラーゲームの一番怖いところは、こんなに恐ろしい思いをしてもなお興味を惹かれてしまうような、言い知れぬ魅力を秘めていることなのかもしれない。
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