第245話 今日は一日いい天気らしい⑤
時間を確認するのも忘れて、あたしとミミちゃんはラケットを片手にシャトルを追いかけ続けた。
お互いにミスらしいミスはなく、真剣勝負と呼ぶにふさわしい白熱した試合を繰り広げている。
気温はそれほど高くないけど、天気予報の通り空は快晴そのもの。
激しい運動によって気付けば全身汗だくで、ご褒美にあんなことを指定しておいてなんだけど、いますぐシャワーを浴びたい気分だ。
「もらったっ!」
弾速は決して遅くないものの、絶好の位置に飛んできたシャトルをあたしは見逃さなかった。
ラケットを鋭く振り下ろし、渾身のスマッシュを放つ。
「んっ!」
絶対に返せないと確信して気を抜いてしまったあたしに、ミミちゃんのカウンターが見事に決まった。
「うわっ、油断した!」
「ふふっ、最後まで気を抜いちゃダメですよ」
「こうなったら、スキルを使うしかないね」
「スキル、ですか?」
「そう、あたしの特殊スキル! 空中に見えないラケットを召喚して、自動的に打ち返すことができる!」
「長年一緒にいますけど、そんなの初めて聞きました」
「奥の手は本当に重要な時まで黙っておくものだからね……なんて、冗談はこのぐらいにしておくとして。いまので同点になったわけだけど、ちょっと続けられそうにないから今回はこの辺で帰ろっか」
シャトルを拾い、ミミちゃんのところへ歩み寄りつつ試合終了と帰宅を提案する。
体力的に限界というわけじゃないし、気温や日差しの強さも現状における危険度はそれほど高くない。
理由は体調とはまったく別のところにある。
「もしかして、どこか痛めたんですか?」
「ううん、それは大丈夫! 途中で転んだりもしたけど、怪我はしてないよ! そうじゃなくて――」
周りに人はいないけど、念のためにミミちゃんのそばで小さめの声で続きを口にする。
「汗で服が張り付いてスケスケだから、誰かに見られる前に帰った方がいいと思ったの」
「……あっ」
言われて視線を下げたミミちゃんは、自分がどういう状態なのかを知った。
激しい運動に伴ってたくさん汗をかき、それを吸い込んだシャツは透けた状態で肌にピッタリと張り付いている。
間違ってもあたし以外の人間に見せるわけにはいかないし、あたしだってミミちゃん以外の人に見られたくない。
「勝負は引き分けだから、どっちも勝ちってことで。ご褒美は二人とも貰えるってことにしない?」
「はい、それがいいですっ」
服が透けていることに気付いて恥じらいが表情に滲む中、ご褒美という言葉を聞いてパァッと明るい笑顔を咲かせるミミちゃん。
あたしの立場としてはこんなに喜んでくれて心底嬉しいというか、なんならこの場でご褒美をあげたいと思ってしまう。
「ミミちゃん、塩飴どうぞ」
「ありがとうございます」
汗で失った塩分を塩飴で補いつつ、あたしたちは帰路に着いた。
真剣勝負という観点で言えば不完全燃焼な結果とも言えるけど、すでにあたしもミミちゃんもご褒美のことしか頭にない。
***
帰宅後。
あたしは下着を濡らしてしまうほどに強い期待感を抱きながらも、試合中に転んだ際に土で汚れてしまったことを思い出し、泣く泣く先にシャワーを浴びることを決断した。
折衷案というわけではないけど、ミミちゃんへのご褒美と同様のことをあたしもしてもらったから、結果的に大満足。
愛してるって、何回言われても嬉しくて幸せだよね。
和室でのイチャイチャを始めたのは昼過ぎだったのに、気付けばもう陽が沈もうとしている。
バドミントンは途中で止めることになったけど、愛の営みは二人の気が済むまで決して終わらない。
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