第257話 バトルが始まる①
数週間前、気温の変化から本格的に夏の終わりを感じ始めていた頃、シャテーニュ先輩からメンバー全員に連絡があった。
内容は企画へのお誘いで、あたしは二つ返事で承諾。他のメンバーもみんな参加する意思を示し、夏の大型企画に続く全員参加のコラボが決定する。
そして、今日。スケジュールの調整やルールの確認などが済み、これからシャテーニュ先輩が配信で企画の発表と説明を行う予定だ。
あたしはミミちゃんと一緒にその配信を視聴するため、ピッタリと密着してソファに座って待機している。
視線の先にあるローテーブルには、待機画面が映るノートPC。あと、お茶とお菓子。
「あっ、そろそろ時間だね」
配信のタイトルは、『エリナと企画告知するよー』。
待機中のコメント欄では企画の内容についての予想や、企画に対する期待感や喜びの言葉が飛び交っている。
「リスナーさんたちの予想を見るのも楽しいですね」
「うんうんっ。初見プレイの実況を見る時のリスナーさんって、こんな気持ちなのかな~」
答えを知っているからこそ、ニヤニヤしながらコメント欄を眺めてしまう。
夏の企画からそんなに期間が空いてないし、このタイミングで全員参加のコラボが来ると予想できた人はいないんじゃないかな。
なんてことを考えていると、不意に画面が切り替わる。
『栗夢シャテーニュだよー。はい、エリナ』
幼さの残るきれいな声がノートPCから聞こえてきた。
シャテーニュ先輩は声や話し方の雰囲気が柔らかく、ミミちゃんに匹敵するほどの癒し力を備えている。
チャンネル主による簡潔極まりないあいさつの後、彼女の同期であるエリナ先輩へとバトンが渡った。
『ごきげんよう豚共、皇エリナよ!』
初見の人には刺激が強そうなあいさつだけど、声質のかわいさに加えて心根の優しさが声に滲み出ていることから、エリナ先輩に対する第一印象で怖いと感じる人はまずいないと思う。
『というわけで、さっそく企画について話しちゃうよー。じゃあ、エリナよろしくー』
『えっ、アタシ!? 発案者なんだからシャテーニュがやりなさいよ。まぁ、別にいいけど……今回の企画はアタシたち一期生が主催する、メンバー全員参加のゲームイベントよ。最初に言っておくけど、お試しでありお遊びだから、コメントとかで強い言葉を吐かないように気を付けなさい!』
急に振られて驚いたものの、すぐに対応するエリナ先輩。
エリナ先輩が注意事項を告げると、コメント欄に『はい!』や『承知しました!』といった勢い強めの返事がどんどん流れてくる。
せっかくだから、あたしも『了解です!』と送信しておこう。
『簡潔に言うと、クラフトゲームの中でこr――じゃなくて、潰し合いをするのよ。協力は一切なし、ただひたすらに敵を探して、敵と出会ったらどちらかが倒れるまで戦う。ちなみに、やられても回数無制限で復活できるわ』
『事務所の仲間を敵だなんて、エリナもなかなか言うねー』
『そういう企画なんだから仕方ないでしょ! 潰し合う相手だから敵って言ってるだけで、普段はかけがえのない大切な仲間だと思ってるわよ!』
『さっきとは違う意味で、エリナもなかなか言うねー』
勢い余って漏れたエリナ先輩の優しい本音に、あたしとミミちゃんは思わず「エリナ先輩……」とつぶやいた。
シャテーニュ先輩も言葉ではからかっているけど、声に照れと嬉しさが混じっている。
『うるさい! もう知らない! 残りはアンタが説明しなさい!』
『はーい。エリナがどれだけみんなのことを大切に思っているか、みんなにも知ってもらえるように説明するよー。例えばこの前、事務所で――』
『違う違う! そんなの説明しなくていいわよ! 企画の説明をしろって言ってるのよ!』
エリナ先輩が声を荒げて制止したものの、結局この後なんだかんだで仲間想いエピソードを四つほど暴露されていた。
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