第256話 モヤモヤした気持ち

 人間誰しも、モヤモヤした気持ちになることがあると思う。

 当然、あたしにだってそういう時がある。

 例えばいま、この瞬間だ。


「はぁ……」


 重い溜息を吐きながら、崩れるように自室の床に腰を下ろす。

 しばらくうつむいて、ふと意味もなく上を向いて。

 普段より刺々しくなっている心を鎮めるため、瞳を閉じて深呼吸を繰り返す。

 気持ちが少し落ち着いてきたところでゆっくりとまぶたを上げ、目の前の光景と向き合う。

 そう、いつまでも目を背けてはいられない。

 という現実は、どう足掻いたところで変わらないのだから。


「はぁ……やっちゃった……」


 またしても溜息が漏れる。

 あたしは視界に飛び込んだ惨状を直視できず、思わず両手で顔を覆った。

 視線を正面から外しつつ立ち上がり、力ない動きでベッドまで移動してパタリと倒れ込む。


「んあ~っ! やだやだ! もうやだ! うぅ……なんでこんなことに……」


 なんでこんなことになったのか、それは自分が一番よく分かっている。

 配信が終わった後におやつを食べようとして、スナック菓子の開封に大失敗したからだ。

 どんなに力を込めても全然開かなくて、それでも必死に開けようとして、ふとした拍子に勢いよく開いて中身が全部散らばってしまった。

 手足をバタバタさせたり、体を丸めてゴロゴロしたり、ひとしきり感情を爆発させたら少しだけ頭の中がスッキリした。気がする。


「さて、と」


 気持ちが落ち着いている間に掃除しよう。

 あたしは心の中で謝罪の言葉を述べながら、床に散らばったスナック菓子を拾い集める。



***



「よしっ、きれいになった」


 部屋はきれいになったけど、胸中のモヤモヤは晴れない。

 というわけで、あたしはミミちゃんの部屋を訪れることにした。

 親しき仲にも礼儀あり。きちんとノックをして返事を貰ってから、扉を開けて部屋に入る。


「ミミちゃ~んっ」


 あたしを出迎えるように扉の方へ来てくれていたミミちゃんの元に駆け寄り、ガバッと抱き着く。


「ど、どうしたんですか?」


「お菓子が爆発しちゃったの!」


「えっ? ば、爆発?」


 困惑するミミちゃんに事情を話したら、「なるほど」と納得して頭を撫でてくれた。

 しばらく撫でてもらった後、ベッドに移動して一緒に寝転ぶ。

 指を絡めて手を握ったり、髪を触ったり、キスをしたり。

 時間を気にせずイチャイチャしているうちに、心の中のモヤモヤはすっかり晴れていた。


「ミミちゃんのおかげで元気出たよ~!」


「ふふっ、そう言ってもらえると嬉しいです」


 その後、あたしたちは対戦ゲームで白熱した戦いを繰り広げたり、おしゃべりしながらクラフトゲームの裏作業を進めたり、晩ごはんの時間まで仲よく遊んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る