第255話 片時も離れたくない

 ホラーゲームの影響で不安と恐怖に苛まれていたのは、すでに過去の話。

 いまから十数分前、ミミちゃんの帰宅と同時にすべてが解決した。

 さっきまであんなに怖かったのが嘘のように、いまは自宅にいる安心感をしっかりと享受できている。


「今日はずっとミミちゃんのそばにいる!」


 ソファで一息つくミミちゃんの隣に座って、腕にギュッとしがみつきながら力強く宣言した。

 午前中に怖くて寂しい思いをした反動か、ミミちゃんと一緒にいたい欲が普段以上に強くなっている。


「えっ、いいんですか? ありがとうございますっ」


「んぇ? なんでお礼? もしかしてミミちゃんもホラゲーを……?」


 感謝されるとは思ってなかったから、発する言葉のすべてに疑問符が付いた。


「だって、ずっとそばにいてくれるなんてご褒美じゃないですか。同じ家に住んで基本的に行動を共にしているとは言っても、一人で過ごす時間が短いわけじゃないですからね」


「なるほど」


 かわいすぎる。

 内容もそうだし、嬉々として語るところもまた愛らしい。

 ミミちゃんの言い分を聞いて冷静に「なるほど」と一言漏らしつつ相槌を打ったものの、頭の中はミミちゃんへの好意でパンクしそうなぐらい感情が爆発している。


「じゃあ、今日はトイレにも一緒に行こうね!」


「す、すみません、トイレはさすがに別々でお願いします」


 さすがにダメだった。


「とりあえずお昼ごはん食べよっか。ミミちゃん疲れてると思うから、今日はあたしが作るよ」


「動き回ったわけじゃないですから、そんなに疲れてないですよ。それに、今日はずっとそばにいるって言ってくれましたよね? わたしも一緒に作ります」


「分かった。じゃあ一緒に作ろ~!」


「はいっ」


 というわけで、あたしたちは二人仲よくキッチンへと移動した。


「卵の賞味期限が近いから、オムライスにする?」


「そうですね、忘れないうちにマッシュルームも使っておきましょう」


「あ~、そっか。マッシュルームもそろそろだっけ。よく覚えてたね、ミミちゃん偉い!」


 けっこう前にマッシュルームの水煮を買ったものの、いつか使おうと思って温存し続けていたら期限ギリギリになってしまっていた。

 メニューを決めた後は、いつも通り分担して手際よく調理を進めていく。


「やった、上手に焼けた~っ」


 オムライスの卵をいい感じのふわとろ具合に仕上げられた瞬間は、何度体験しても嬉しいものだ。

 感覚が残っているうちに、もう一皿分も同様に焼き上げる。

 完璧すぎて思わずスマホを取り出して写真を撮ってしまった。


「ミミちゃん、ケチャップでなにか書いて! それも撮りたい!」


「任せてください」


 ミミちゃんはケチャップを持ち、真剣な眼差しでオムライスと向き合う。

 せっかくなので、その様子も動画に収めておくことにした。


「できましたっ」


 いつの間にか手元ではなくミミちゃんの顔を捉えていたことに気付き、スマホをオムライスの方へと向け直す。

 大きなハートマークの中に、『大好き』という文字が書かれていた。


「ありがと~! あたしも大好きだよ!」


 スマホを置いてミミちゃんに抱き着き、背伸びをして唇を重ねる。

 午前中にできなかった分を取り戻すかのように、ミミちゃんの温もりを感じながらキスを楽しむ。

 そして、この日はこの後も宣言通りずっとそばにいた。

 例外はトイレだけど、もしかしたらいつかトイレの中まで一緒に行くことになる日が来るかもしれないし、来ないかもしれない。

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