第254話 恐怖が遅れてやって来た
ホラーゲームの実況をした日は、怖くてなかなか寝付けないことが多い。
けど、昨日の場合は違った。
ホラゲーにしては珍しくゲーム内で行動する時間帯が主に昼間だったのと、疲れてて眠気が強かったこともあり、割とすぐ眠りに就くことができた。
そして、怖い夢を見ることもなくスッキリとした目覚めで朝を迎える。
ゲームのプレイ中に感じていた恐怖は、まったくと言っていいほど尾を引いていない。
「ミミちゃん、行ってらっしゃい!」
「行ってきます。帰る前に連絡しますね」
行ってらっしゃいのキスとハグをしてミミちゃんを見送った後、あたしは寂しさを紛らわすように鼻歌を奏でながら自室へ戻った。
ミミちゃんは昼過ぎぐらいに帰ってくる予定だ。
あたしはこれと言ってやることもないから、少しゴロゴロしてから部屋の掃除でもしようかな。
そんなことを考えながらベッドに寝転び、スマホを手に取りエゴサを始める。
三十分ぐらいスマホと向き合った後、のどが渇いたのでキッチンへ。
麦茶を飲みながら何気なくリビングの方を見ていると、不意に昨日プレイしたホラゲーを思い出した。
昼間のリビングで起きた怪奇現象の数々、プレイヤーとして体験したゾッとするような恐怖が、鮮明によみがえる。
言うまでもなく、ゲーム内の出来事が実際に起こるわけがない。
でも、怖い。
ホラゲーをプレイするたび、ホラー映画を見るたびに同じようなことを思い、そのたびに乗り越えてきているにもかかわらず、この言い知れぬ恐怖には一向に慣れることができない。
いつもと同じ家の中なのに、なにかが起こりそう――というより、すでになにかが起きているんじゃないかと不安になる。
「だ、大丈夫、別になにも起きないって」
自分に言い聞かせるように独り言を漏らす。
この場を包む静寂を破る意図もあったものの、言葉を発し終えた後のシーンとした静けさが余計に際立ってしまった。
恐怖を振り払うためにも、あえてリビング全体を観察する。
さっきまでなかった物がなぜかテーブルの上にあるなんてことはないし、ベランダの窓をノックする音が聞こえてくるわけでもないし、窓を閉めているのにカーテンがなびいているということもない。なんの変哲もない、至って当たり前の光景だ。
それでもやっぱり怖い。
外は明るいし、ゲームをプレイしてから一晩経ってるし、周囲をじっくり見ても異変の欠片も見当たらない。
なのに怖い。
「そ、掃除でもしよっかな~」
あたしは残りの麦茶を一気に飲み干し、コップを洗って部屋に戻った。
ミミちゃんの歌枠のアーカイブを大きめの音量で流しながら、部屋の掃除を始める。
髪の毛一本落ちていないことを入念に確認して達成感に浸りながらベッドに腰かけ、ほんの数秒後。
せっかく薄れていた不安感が再びじわじわと主張してきた。
「みっ、ミミちゃ~ん!」
愛する人の名前を叫びながら、無駄に勢いよく立ち上がって部屋を飛び出す。
その後、ミミちゃんから『いまから帰ります』という連絡を受けるまでの間に、あたしは自室だけでなく洗面所と浴室も隅々まで掃除した。
普段からきれいにしているけど、他になにも考えられないほどの集中力を発揮して徹底的に掃除した。
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