第60話 一期生vs二期生⑤

「えっと、その……なんかごめん」


 ぶっちぎりの一位でゴールしたエリナ先輩が、気まずそうに言った。

 得意なコースとは、いったいなんだったのか。自信満々にコースを選んだあたしの順位は、シャテーニュ先輩に僅差で勝っての三位。

 つまるところ、無乳同盟は言い訳も引っ込んでしまうほどの大敗を喫したわけだ。

 ミミちゃんが二位でゴールしたので、二期生チームとしてはまずまずの結果と言える。


「べっ、別に気にしてないもん。いまのレースはきっと、勝利の女神様が相当な巨乳好きだったに違いないよ」


 とは言ったものの……コースの選択者が一位になれる保証なんてどこにもないとはいえ、得意コースで三位というのは素直に悔しい。

 最後のアイテムによっては、最下位になっていた可能性もあった。


「エリナ、一位おめでとー」


「ありがと。この調子で最終レースでも一位を狙うわ」


「もう最終レースなんて、あっという間に感じますね」


「他の対決もあるから今回は四レースで終わりだけど、今度また別の企画で百レース耐久コラボとかやろうよ!」


「いいねー、面白そう」


「いや、さすがに百レースは多いわよ」


「長丁場になるはずですから、リスナーさんたちにも覚悟を決めてもらわないといけませんね」


 企画中に別の企画についての構想を膨らませつつ、手元のコントローラーを操作して画面を進める。

 最後にコースを選ぶのはミミちゃんだ。

 配信画面にはゲームの映像とあたしたちの立ち絵、そしてチームごとのポイントが表示されている。

 各レースで獲得できるポイントは、一位が15P、二位が12P、三位が10P、四位が9P。

 一レース目は一位シャテーニュ先輩、二位あたし、三位エリナ先輩、四位ミミちゃん。

 二レース目は一位ミミちゃん、二位シャテーニュ先輩、三位あたし、四位エリナ先輩。

 三レース目は一位エリナ先輩、二位ミミちゃん、三位あたし、四位シャテーニュ先輩。

 現時点での合計ポイントは一期生が70P、二期生が68Pだ。

 負けてはいるけど、その差は極めて小さい。

 ここまでの結果を振り返ってみると、あたしだけまだ一着でゴールできてないことに気付いた。

 期生チームとして勝利を収めるのはもちろん、最終レースで一位を獲って有終の美を飾りたい。


「――ここにします」


 ミミちゃんがコースを決定したことにより、いよいよレースゲーム対決の最終戦が始まる。

 ピリピリと肌を刺すような緊張感に包まれ、コントローラーを握る手がじっとりと汗ばむ。

 スタートダッシュをきっちり決めて、インコースを攻めつつアイテムを入手する。

 いまはミミちゃんとほぼ横並びで、わずかにあたしの方が前にいる状態だ。


「ミミちゃん、アイテムは?」


「キノコでした」


「エリナ先輩落とすから、ショートカット狙ってくれる?」


「了解です」


「ちょっ、なに淡々と不穏なこと話してんのよ!」


 普段の会話と比べてやや早口で行われたあたしとミミちゃんのやり取り。

 対抗策を練ろうとしても、もう遅い。

 あたしの行動はすでに終わっているのだから。


「エリナの死は無駄にしないからねー」


「死んでないわよ! だいたい、まだ始まったばかりじゃない。これからいくらでも挽回してあげるわ!」


 作戦通り加速アイテムを用いてショートカットを無事に決めたミミちゃんが先頭を独走し、追尾型の妨害アイテムでエリナ先輩を攻撃したあたしが後を追う形になっている。

 エリナ先輩が言った通り、まだ序盤なので油断はできない。

 激しい攻防を繰り返し、何度か順位が入れ替わりながらも、最終ラップで再び巻き返す。

 ゴールまであと少しというところで、あたしが先頭に躍り出る。

 まるで主人公になったみたいな展開だと心を躍らせていたのも束の間――


「かわいそうだけど、これも因果応報ってやつよ。食らいなさい!」


 エリナ先輩のどこか勝利を確信したような声音に嫌な予感を覚えた次の瞬間、先頭のプレイヤーを狙い撃ちするアイテムが凄まじい勢いで飛来する。


「やっ、やだっ、やめて! エリナ先輩のエッチ!」


 悲痛かつ的外れな叫びも空しく、あたしは爆発の直撃を受け、すぐ後ろにいたミミちゃんもそれに巻き込まれてしまう。


「なんでエッチって言われたのかは分からないけど、一位になれたからよしとするわ」


「やった、二位だー。エリナのおかげだねー」


 立て直している間にエリナ先輩とシャテーニュ先輩がワンツーフィニッシュ。

 あたしは三位、ミミちゃんは四位でゴールすることになった。


「負けた~っ! 絶対勝ったと思ったのに!」


「意趣返しされてしまいましたね」


 悔しくて思わず地団駄を踏みたい気分だけど、耐震・防音性に優れているとはいえスタジオの中なのでグッと我慢する。


「というわけで、めちゃくちゃ悔しいけどレースゲーム対決は二期生の負け! 最終的なポイントは一期生チームが97P、二期生チームが87Pになりました!」


 ちなみに、個人ごとの合計ポイントはエリナ先輩が49Pでトップ、次いでシャテーニュ先輩が一点差の48Pで、ミミちゃんが45P、そしてあたしが42P。


「個人のポイントで最下位だったから、この失態のツケは体で支払うことにするよ~。配信裏であたしがミミちゃんにどんな目に遭わされるか、リスナーさんたちはいろいろ想像して楽しんでね! ファンアートも待ってるよ!」


 結局あたしだけ一度も一位になれなかったということもあり、本来受ける必要のない罰ゲームを自ら提案する。

 いったいどんなに卑猥なお仕置きを受けることになるのか、いまから楽し――じゃなくて恐ろしい。


「えっ!?」


 あまりにも唐突すぎる流れだったので、ミミちゃんが驚愕の表情でこちらを見る。

 次に反応を示したのはエリナ先輩だった。


「具体的な日付が決まったら教えなさいよね。アタシとシャテーニュが責任をもって見届けてあげるわ」


「エリナが見たいだけだったりして」


「はぁ!? ちっ、ちちち、違うわよ!」


「エリナ先輩のエッチ!」


「エッチじゃないわよ!」


 最後にゲームと無関係なところで盛り上がりを見せ、二つ目の対決は一期生チームの勝利によって幕を閉じた。

 ここまでの戦績は一勝一敗。

 いよいよ、次が最後の対決だ。

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