第95話 全体コラボのための全体コラボ①

 お料理配信こと全体コラボは八月中旬を予定しており、チャットでの意見交換を経て夏野菜カレーを作ることに決まった。

 必要な材料は事務所が用意してくれるらしく、あたしたちがやるべきことは具材を決めて連絡するだけとなっている。

 この相談もチャットで済ませるつもりだったんだけど、スケジュールの変更によってコラボ前に全員の予定が合う日が生まれ、せっかくだから通話をつないで配信しようという話になった。

全員が参加する以上、これも立派な全体コラボと言える。


「みんな、こんユニ~! 説明が少し長くなりそうだから、とりあえず自己紹介から始めるよ! デビュー順によろしく!」


 あたしのチャンネルで配信するということで、司会というほど大げさなものではないけど、トークを回す役を担う。

 最近こういう役回りが増えてきたこともあり、なんとなく慣れてきた気がする。


「ごきげんよう、豚共! 皇エリナよ!」


「こんばんはー、栗夢シャテーニュだよー」


「闇神ミミですっ」


「ネココにゃんっ」


「ふっ」


 わずか一分にも満たない時間で、五人の自己紹介が終了した。


「いやいや、簡潔すぎるでしょ! 後になるにつれて短くなってるし、スノウちゃんに至っては自己紹介なのに名乗ってもいないよ!?」


 あまりにも省略されすぎた自己紹介に、ツッコまずにはいられない。


「早く本題に入った方がいいかと思って短くしたのよ。でも、アタシはもう少し短くするべきだったわね。反省するわ」


「反省しなくていいよ! 初見さんもいるかもしれないし、むしろもう少し長くして! でも気遣いはありがとう!」


 コメント欄を見ると、あいさつ以上の割合で自己紹介へのツッコミが溢れている。

 他の四人にもいろいろ言いたいことはあるものの、それこそ本題へ移る前に一時間ほど使ってしまいそうなので、ここは心の中に留めておく。


「前に告知した通り、八月中旬に全体コラボ――みんなでお料理配信をすることになってるよね。それで、メンバーで話し合った結果、夏野菜カレーを作ることに決定しました!」


 言い終わると同時に、いつもお世話になっている盛り上げ用のSEを鳴らす。


「この配信では、どんな食材を使うか決めるための話し合いをするんですよね」


「その通り! 玉ねぎと人参とじゃがいもは確定として、全員で意見を出し合って中身を決めるよ! リスナーさんのコメントも参考にさせてもらうから、おすすめの具材があればコメントしてね~」


『ポテチ』

『唐揚げ』

『厚揚げ』

『フカヒレ』

『ピーナッツ』


 まるで示し合わせたかのように、参考にならない品がコメント欄にどんどん流れてくる。

 それともあたしが知らないだけで、意外と夏野菜カレーの具材として人気だったりするのだろうか。

 パッと目に付いた中だと、唐揚げはトッピングとしてなら見たことがあるけども。


「なるほどー、斬新な意見が多いねー。ポテチ入りのカレーっておいしいのかな?」


「いくら原材料がじゃがいもでも、カレーの具材としては無しだと思うわよ」


「だよねー」


 一期生の二人が微笑ましいやり取りを交わしている間にも、夏野菜とは無縁の品々がコメントで送られてくる。

 もし今後闇鍋をする機会があれば、その時は迷わずリスナーさんに意見を求めるとしよう。

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