第247話 お菓子を食べる

「みんな、こんユニ~! お知らせした通り、今日はお菓子を食べながらおしゃべりする配信だよ!」


 日曜の午後、あたしは手元にたくさんのお菓子を置いた状態で配信を開始した。


「張り切って言うことでもないんだけど、目の前にお菓子がいっぱいあるとテンション上がっちゃうよね~。みんなもお菓子用意してくれた?」


 モニターの前はキーボードを除く場所がお菓子に占領されていて、マウスの近くにも包装された小さなチョコが二つ鎮座している。

 もしマウスを動かす必要がなかったら、マウスの周りもお菓子で埋め尽くされていたかもしれない。

 全部一気に開封するわけじゃないので、余ったらまた後日食べればいい。


『こんユニ~』

『お菓子買ってきたよ』

『この配信のおかげで期限切れ寸前のお菓子に気付けた』

『さっきスーパーで駄菓子を大人買いしてきました』


 コメントを目で追いながら、おもむろにチョコを手に取る。


「朝方に近所のコンビニに買いに行ったんだけど、コンビニスイーツっておいしそうなの多いよね! すでにチョコとかポテチとかカゴに入れてたのに、つい何個もカゴに追加しちゃった。それはそれとして、さっそくチョコいただきま~す」


 モニターのすぐそばに居並ぶモンブラン、マカロン、和風ティラミスに視線を送りつつ、包装を剥がしたチョコを口に放り込む。


『分かる』

『何気にクオリティ高いよね』

『新商品が出たらとりあえず買っちゃうかも』

『流れるようにチョコ食べたね』


「ちょっと高いけど、奮発して買おうかなって思えるラインだよね。ちなみに、あたしが今日買ったコンビニスイーツはモンブランとマカロンと和風ティラミスだよ~」


『いいねー』

『おいしそう』


「それ以外だと、え~っと……辛いポテチと、青のりがいっぱいのポテチと、板チョコと、メロン味のチョコと、レモン味のグミと、さっき食べたちっちゃいチョコ二つと、駄菓子を全種類一つずつ買った!」


 一つずつ指差し確認しながら、本日のラインナップを明かした。


「あっ、そうだ。一応言っとくけど、さすがにこの配信中に全部は食べないからね!」


『それはそう』

『さすがにね』

『言われなくても分かるよw』

『全部食べたら逆に驚く』

『余裕で食べれる量だと思ってしまった自分はもう手遅れかもしれない……』

『そう言って配信が終わる頃には食べ尽くしてたりして』


「辛いポテチ食べてみようかな。みんなは辛いの好き?」


『好き』

『好きだけど辛すぎると食べれない』

『苦手かなぁ』

『ピリ辛ぐらいなら好き』


「んっ、おいしい! ちょうどいい辛さで、これならおいしく完食できそう!」


『よかった』

『私もポテチ食べよ』

『ダイエット中だけど今日だけお菓子解禁しようかな』


 ――ん?

 ポテチを咀嚼してパリパリと音を鳴らしていると、不意にスマホが震えた。

 ミミちゃんからのメッセージが届いていて、ロック画面に表示された文章に目を通す。

 そこには、『クッキーを焼いたんですけど、食べますか?』と記されていた。


「食べる~!」


 ハッとなって手で口を押さえた時にはすでに遅く、あたしはミミちゃんへの返事を声に出してしまっていた。


『ビックリした』

『好きなだけ食べな』

『違うお菓子食べるの?』


「いきなり大声出してごめんね。実はミミちゃんから連絡が来たんだけど、クッキー焼いたから食べないかって聞かれて、手より先に口が動いちゃった」


 あたしはいま起きたことをリスナーさんに説明しつつ、ミミちゃんに『食べる!』と返信する。


「唐突だけど、予定を変更してミミちゃんのクッキーを食べる配信にするね! というわけで、クッキー貰ってくる! というかミミちゃん呼んで一緒に食べる! ちょっと待ってて!」


 言うが早いか、あたしはリスナーさんたちの反応も見ずにその場を後にした。

 そして宣言通りミミちゃんを部屋に招き入れ、あたしが買ったお菓子とミミちゃんが作ってくれたクッキーを二人で堪能する。

 お菓子を食べながらおしゃべりするというのは当初の予定通りだけど、まさかこんな展開になるとは思っていなかった。

 コンビニスイーツはどれも大当たりで、ミミちゃんのクッキーもめちゃくちゃおいしくて、とても幸せな気分だ。

 ただ一つ、この短時間で摂取したカロリーは…………いや、考えるのはやめておこう。

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