第248話 清楚って難しい①

「みんな、こんユニ~! あ~、新しい属性が欲しいな~」


『?』

『急にどうした』

『酔ってる?』

『属性?』


 配信開始早々の突飛な発言を受け、ワクワクしている様子だったコメント欄が一気に困惑の色に染まった。


「というわけで、今日は新しい属性を求めて試行錯誤していくよ!」


『こんユニ』

『こんユニですー』

『成功する未来が見えない』

『新しい属性かー』

『面白そうではある』


 デビュー時から追ってくれている人はもちろん、最近なにかのきっかけで見始めてくれたという人も、きっと分かっているはずだ。

 あたしはちょっとした思い付きを、特に下準備することもなく配信で実行することが往々にしてあると。


「前にヤンデレとして配信したの覚えてる? 最後にゲームの中でミミちゃんが仕掛けた落とし穴に引っかかって、地下室に閉じ込められちゃったやつ」


 あの配信はラストでミミちゃんがすべてを持って行ったと言っても過言ではなく、ミミちゃんはあたしのヤンデレムーブが霞むほどのヤンデレっぽさを演出していた。


『覚えてるよ』

『あったね』

『ちょうど昨日アーカイブ見直してた』

『オチがよかったよね』


「属性って数え切れないぐらいあるけど、あたしに似合うのはやっぱり『清楚』だよね!」


 さっきは試行錯誤すると言ったものの、その方向性はすでに定まっている。

 要するにこの配信は、どんな属性を手に入れるのかを決めるのではなく、どうやって清楚属性を会得するのかを考える場だ。


『せい、そ……?』

『かわいいけど清楚ではない』

『いまさら清楚枠は無理じゃない?』

『清楚ってどういう意味だっけ?』

『ライオンが草食動物を自称するのに等しい』


 確かにあたしも自分が清楚枠じゃないことは薄々自覚しているけど、それにしても誰一人として肯定的な意見がない。


「みんなひどいよ! 事務所内でミミちゃんに次ぐ清楚として業界内で有名――かもしれないのに!」


『ごめんて』

『どこの業界の話なんだ』

『それ二期生限定の話ですか?』


「まぁまぁ、とりあえずみんな落ち着いてよ」


『落ち着いてるよー』

『落ち着いてますけども』

『ユニコちゃんが落ち着こう』

『一度深呼吸しようか』


「確かにいまの時点ではあたしを見て『これは清楚』って感じる人は多くないかもしれないけど、この配信でその割合を増やすの! 上手くいけば、この配信が終わる頃にはみんながあたしのことを清楚の権化だと認識してるはず!」


 あたしは拳をギュッと握り、熱い意気込みを口にした。

 その熱意を受けたリスナーさんたちの反応は――


『なるほどー』

『上手くいくといいね』

『応援してるよ』

『頑張って!』

『ユニコちゃんならできますよ』


「文面だけ見ると嬉しいのに、気持ちがこもってないのが痛いほど伝わってくる!」


『そんなことないよ』

『ユニコちゃんなら清楚になれる』


「仕方ないな~。こうなったら、ミミちゃんを呼んで清楚の秘訣を盗むことにしよっか」


 今日はミミちゃんに配信の予定がないから、お願いしたら来てくれるかもしれない。

 強力な助っ人の登場(予定)に、リスナーさんたちも成功の可能性を感じ始めている様子だ。

 この配信が終わった時、あたしは清楚属性を手に入れているはず!

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