ギリギリセーフ(?)な配信活動~アーカイブが残らなかったらごめんなさい~
ありきた
第1話 今日も楽しく配信するよ
いつも通り各種機材のチェックを終え、目の前にあるパソコンと向き合う。
画面には、見慣れた姿が映っている。
容姿も体型も幼いその美少女は白銀の髪を後頭部で結い、額からは一本の角を生やし、純白の豪奢なドレスに身を包む。
画面の中で『わくわく』『そろそろか』『間に合った?』『このために生きてる』など、様々なコメントが引っ切り無しに流れていく。
いわゆるVtuberという存在は、いまや世間一般においても確固たる知名度を築きつつある。
彼女もその一人で、名を
異世界からやって来た、年齢不詳のユニコーンが擬人化した女の子だ。
「みんな、おはユニ~! 今日も楽しい配信にしていきましょう!」
ユニコ――あたしが元気いっぱいにあいさつすると、コメント欄はお決まりのあいさつである『おはユニ~!』で埋め尽くされていく。
「それじゃ、今日は久々の雑談配信ってことで、多めにコメント拾ってくね」
あたしがそう告げると、朝食や昨日の夕食、参加予定のコラボ配信に対する意気込みなど、いろんな質問が投げかけられた。
こういう配信の時は事前にSNSで質問を募ることもあるけど、ぶっつけ本番で応答する方が自分には合っている。
「朝ごはんはまだ食べてないよ~。ミミちゃんが起きたら、なにか作って一緒に食べる……と思う。多分」
ミミちゃんというのは、あたしの同期であり同居人。
いま頃はまだ隣の部屋で熟睡していることだろう。
二部屋とも防音性が極めて高いので、仮にミミちゃんが起きて歌の練習をしていたとしても、あたしには知る由もない。逆もまた然りだ。
『てぇてぇ』
『ちゃんと食べてね』
『二人の手料理とか、言い値の十倍出すから買わせてほしい』
『料理配信待ってます』
などなど、リスナーさんたちがいろんなコメントを返してくれる。
朝も早くからたくさんの人があたしの配信を見てくれて嬉しい限りだけど、すべて自分の実力かと言えば、決してそうではない。
【ゆりりり株式会社】が運営する【ガールズパーティ】というVtuberグループ。あたしはその二期生として半年ほど前にデビューした。
いまはまだ先輩が築いた道を歩かせてもらっている状態だけど、ゆくゆくは自分もグループの人気を高める一助を担ったのだと胸を張って言えるようになりたい。
「実を言うと、あたしもまだちょっと眠いんだよね。昨日は遅くまでミミちゃんと、ふぁあ」
話している途中に、大きなあくびが漏れる。
『配信終わったらしっかり寝てもろて』
『遅くまでミミちゃんと……?』
『無理しないでね』
『寝落ちしてもいいよ』
『あくび助かる』
「朝から枠取ってたから早めに寝るつもりだったんだけどね、久しぶりのエッ――あ、いや、違くて、言葉のあやというか……ところで、みんなは朝ごはん食べた?」
自分で思っていたより寝不足によって思考力が弱まり、とんでもないことを口走りかけた。
無理やりにごまかし、強引に話題を変える。
『エッ』
『センシティブですよ!』
『妄想が捗る』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『エッ?』
『エッ、の続きについて詳しく』
『ゆうべはおたのしみでしたね』
ダメだ、全然ごまかせてない。
これはちょっと、後で運営さんからお𠮟りのチャットが来ちゃうかもしれない。
怒涛の勢いで流れるコメントに苦笑しながら、あたしはこの配信のアーカイブを残せるかどうか心配するのだった。
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