第2話 あたしとミミちゃんの関係
今朝の配信ではうっかり爆弾発言が飛び出そうになったけど、未遂ということもあり、どうにかアーカイブを消さずに済んだ。
まぁ、予想通りお叱りのチャットは来たけども。
今日は二回行動ということで、お昼ご飯を食べてしばらくのんびりと過ごし、いまは飲み物を用意したり機材チェックをしながら配信開始に備えている。
「ユニコちゃん、お待たせしました」
開け放っていた扉から、この世の絶対的ヒロインが登場した。
彼女こそ、あたしこと一角ユニコの同期にして同居人――
腰まで届く艶ややかな黒髪、つるつるすべすべの玉子肌、ASMR配信と相性抜群な癒し系ふわふわボイス。
部屋着として愛用している大きいサイズのTシャツは、100cmオーバーの豊満なバストを優しく包み込んでいる。
下は昨年の誕生日にプレゼントした布面積小さめの黒い下着以外、なにも穿いていない。
あたしは遠慮なく堂々と直視するけど、他の人には絶対に見せられない格好だ。
「しっかり出してきたー?」
「なっ!? げ、下品ですよっ」
トイレから戻ったばかりの同居人に品のない言葉を投げると、期待通りのかわいらしい反応を返してくれた。
ミミちゃんとは長い付き合いで、ついつい軽口を叩いたり品性の欠如した会話を振ってしまう。
Vtuberとしては同期であり、神獣であるあたしと闇の力を司る魔神であるミミちゃんは神話の時代からの盟友で、同時期に異世界からバーチャル世界へとやって来た。
メタ的な話になるけど、中の人としても旧知の仲だ。
最初に会ったのは幼稚園に入る前。あたしの方がミミちゃんより一つ年上なので学年こそ違うものの、かれこれ二十年近く一緒に過ごしてきた。
付き合いが長すぎてうっかり本名を言いかねないので、慣れるために私生活でもユニコとミミの名前で呼び合っている。
「ごめんごめん、配信中は気を付けるから」
「本当に気を付けてくださいね。朝のアーカイブ見ましたけど、思わず心臓が飛び出そうになりましたよ」
「あー、うん、あれはホントごめん。寝起きで頭が回ってなかったとはいえ、ミミちゃんとエッチしたって口走るところだったよ」
「ひぅっ」
『エッチ』という単語を耳にした瞬間、ミミちゃんが小さく短い悲鳴を上げ、頬を赤らめて身を縮こまらせる。
あたしとミミちゃんは幼い頃から恋人として付き合っていて、エッチした回数は両手両足の指と関節をフル動員しても数え切れない。
にもかかわらず、ミミちゃんは未だにそっち方面に対する免疫が皆無に等しい。
実を言うと、ミミちゃんの純真無垢っぷりには配信活動において非常に助けられている。
今朝のこともそうだけど、あたしはわりとポロッとボロを出しがちだ。深く反省しているし、矯正していくべき欠点でもある。
それでもあまり騒ぎ立てられない理由の九割を占めるのが、ミミちゃんだ。
例えば――
「ミミちゃん、後でキスしようよ。激しくて濃厚な、ものすごーくエッチなキス」
「にゃっ、な、なななっ、なに言ってるんですか! うぅ……そ、そういうことは、その、言葉に出さずに、えっと、あの……あぅぅ」
この通り、とても経験豊富とは思えない初々しい反応を見せてくれる。
嘘や演技ではなく、本心から恥ずかしがっていることは明白。
要するに、あたしがミミちゃんとの私生活におけるエッチな出来事をちょっぴり漏らしたとしても、リスナーさんたちはあたしの誇張表現や妄想、もしくはネタの一種として捉える。
「あはは、ごめんね。お詫びに後で好きなアイス奢ってあげる」
「本当ですかっ!? やったーっ、ありがとうございます!」
まだ顔は赤いままだけど、ミミちゃんが歓喜のあまり大はしゃぎする。
感情の昂りを物語るかのように、おっぱいがぶるんぶるんと揺れ弾む。
はぁ……かわいい。なにこのかわいい生き物。あたしの彼女だよ。幸せすぎて爆発しそう。
「さてと、そろそろ始めよっか」
「そうですね、リスナーさんたちも楽しみに待ってくれていますよ」
いまからあたしのチャンネルで、ミミちゃんとのコラボ配信を行う。
画面には二人分の立ち絵が表示されていて、右端にあたし、その隣にミミちゃんが並ぶ。
闇をイメージした深紫の長髪と、ハイライトのない黄金の瞳。
袖のないパーティードレス風の衣装に身を包み、線の細さに反して胸の膨らみはかなり豊か。
グループ内で最たる巨乳であり、虚無と称されるあたしの胸との差が尋常じゃない。
あたしはミミちゃんとコラボすることが多いんだけど、そのたびに『山と平地』とか『まな板とメロン』とか『胸囲の格差社会』といったコメントが流れる。
いいじゃん、貧乳だって。なにかと楽だし、肩も凝らないし。
ちなみに、リスナーさんには内緒の情報だけど……あたしの真隣でTシャツ越しに存在を主張している胸部の膨らみは、配信画面に映るミミちゃんのおっぱいよりも大きい。
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