第3話 配信中でもイチャイチャしたい

 用意しておいた飲み物でのどを潤わせ、ミミちゃんとアイコンタクトを交わす。

 予定していた時間ちょうどに配信を始めると、怒涛の勢いでコメントが流れ始めた。


『こんユニ』

『こんユニです』

『こんユニー!』

『ミミちゃーん!!』

『こんユニ』

『ユニミミ待ってました!』

『この日のために有給取ったよ~』


 コラボとはいえ特別な企画物の配信ではないにもかかわらず、コメント欄の盛り上がり方が尋常じゃない。

 中には上限額の投げ銭スパチャをしてくれる人もいて、動揺のあまりあいさつが一瞬遅れた。


「みんな、こんユニ~! 朝も配信に来てくれた人は数時間ぶりだねっ。今日は待ちに待ったミミちゃんとのオフコラボだよ!」


「みなさん、こんユニです。ガールズパーティ二期生の闇神ミミですっ。ユニコちゃんのリスナーさん、今日はよろしくお願いしますっ」


 あたしに続き、ミミちゃんも始まりのあいさつを告げる。

 ちなみに、朝は『おはユニ』で昼夕夜は『こんユニ』、配信を終わる時は『おつユニ』というあいさつを使う。

 ミミちゃんはお決まりのあいさつがないので、コラボをする時はあたしに合わせてくれている。


「それじゃあミミちゃん、いまからなにする? ミミちゃんが決めていいよー」


「えっ、丸投げですか!?」


「どうしてもと言うなら、リスナーさんたちに見られながらあんなことやこんなことを……」


 と言いもって、リアルでも画面上でもミミちゃんの方に少し体を寄せる。


「あ、あんなことや、こんなこと……?」


『いいぞもっとやれ』

『ミミさん逃げて!』

『ミミちゃんに魔の手が』

『詳しい実況よろしく』

『まだ夕方ですよ!』


 ミミちゃんの動揺と不安の入り混じった恥ずかしそうな声に、コメントの流れが再び勢いを増す。


「とまぁ、ミミちゃんをからかうのはこれぐらいにして――とりあえず、リスナーさんたちの質問に答えていこうかな」


「からかう必要ありました?」


「だってかわいいんだもん。みんなも嬉しいよね?」


 リスナーさんたちにそう訊ねかけると、反応の九割が肯定的なコメントだった。

 残りの一割に関しても、建前はどうあれ実質的にはミミちゃんの恥じらう様子を喜んでくれている感じだ。

 今回のコラボは一時間枠で雑談をメインにやっていくつもり。細かいことはなにも決めていない。

 コラボとはいえ事前に内容を固めすぎると台本っぽくなってしまうこともあるので、多少雑なぐらいがちょうどいい。あくまであたしの意見だけどね。


『二人は付き合ってるの?』


 コメント欄を眺めていると、そのような内容のコメントがいくつか流れていた。

 あたしは当然だと言わんばかりに、うんうんと深くうなずく。


「まぁ、言わずもがなって感じだよね。闇の民さんには悪いけど、ミミちゃんはあたしが貰っちゃった。ね、ミミちゃん?」


【闇の民】というのは、ミミちゃんのリスナーさんのこと。

 あたしのリスナーさんには、【一角獣守護同盟】という呼び名がある。

 自分で言うのもなんだけど、緊張と猫被りで儚げな印象のある初配信の時に決めていなかったら【珍獣の保護者】とかになっていたかもしれない。


『てぇてぇ』

『末永くお幸せに』

『ミミちゃん渾身のスルー』

『闇の民の脳が破壊される』

『NTRはヤバい』

『俺たちのミミちゃんが……!』

『という夢を見たんだ』

『本人が隣にいる状況で妄想を語るってすごいな』


 いろんなコメントが流れているものの、あたしとミミちゃんが本当に付き合っていると思っている人はいないだろう。

 それを狙って――と言えば聞こえは悪いけど、実際わざと軽いノリで話している。

 配信中でもミミちゃんとイチャイチャしたいという気持ちと、交際している事実を隠さなければならないというガールズパーティ所属タレントとしての都合。その両方を立てるためだ。


「あたしは別にドМってわけじゃないんだけど、ミミちゃんみたいな美少女にスルーされるのってめちゃくちゃ興奮するんだよねー。みんなもそうでしょ?」


『そ、そんなことないよ(棒)』

『分かる』

『私も実は……』

『なんなら罵詈雑言を浴びたい』


「だってさ、ミミちゃん。さっき質問に答えていくって言ったばかりだけど、今回はミミちゃんの罵声配信ってことにしない?」


「嫌ですよっ。リスナーさんたちもユニコちゃんに乗せられないでくださいっ」


 こんな感じで、リスナーさんたちを巻き込んでミミちゃんを再度からかいつつ、賑やかな配信を楽しんだ。

 終盤の方で質問に次々と答えていく時間を設けたので、一応は有言実行したことになる。

 最後に二人で一緒におしまいのあいさつをして、この配信は無事に終了した。

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