第22話 飽きない定番
「おはユニ~! みんな朝から来てくれてありがとう! いまから一時間か二時間、もしかしたら三時間ぐらい、あたしのおしゃべりに付き合ってもらうよ~」
祝日の朝、ゲリラでの雑談配信を開始した。
雑談は歌やゲームに並ぶ定番の配信であり、統計を取ったわけじゃないから断言はできないけど、あたしは平均より高頻度でやっている方だと思う。
週に何回ぐらいとかはまったく決めていなくて、ひと月ぐらい空く場合もあれば、四日ぐらい連続で雑談配信をする場合もある。
『おはユニです~』
『おはユニ』
『おはユニ』
『たまたま徹夜しててよかった』
『何時間でも付き合うよー』
「雑談配信って楽しいよねっ。みんなと友達感覚でワイワイ盛り上がれるから、配信の中でもかなり好きなジャンルかも。全員のコメントを拾えるわけじゃないから、そこは本当に申し訳ないけど」
さて、一口に雑談配信と言っても、事前に話題を用意している場合とそうでない場合がある。
今日は後者なので、どんな話をするかはいまから決める。
「あんまり愉快な話にはならないかもしれないけど……もしゴキブリが家に出たら、どうすればいいと思う?」
ここに引っ越してからは一度も見たことがないものの、さも最初から一緒に住んでいたかのようにスッと現れるのがゴキブリだ。
『叩き潰す』
『殺虫剤』
『逃げる』
『私なら引っ越す』
『家ごと燃やす』
『立ち去るよう交渉するとか』
『とりあえず土下座かな』
思っていたよりユニークなコメントが多くて、ちょっとビックリする。
「いろんな意見があるね~。というか、燃やすとか交渉とかってどう考えてもツッコミ待ちだよね? むしろそうじゃなかったら困るけど」
『え、本気だけど?』
『なるほど、今度試してみようかな』
『ゴキブリと会話できるアプリ探さないと』
『頭を下げてお願いしたことあるけど、顔面に飛んできてそのまま気絶した』
『その場しのぎで紙コップに閉じ込めて、未だにそのままです』
「とにかく危ないことだけは絶対にしないでね。ユニコお姉さんとの約束だよ?」
大人の女性を意識して、色っぽい感じの声を出してみる。
『はーい』
『お姉さんは草』
『お姉さん……?』
『声が幼すぎるんだよなぁ』
『前半は分かったけど後半が意味不明』
『お姉さんってどこにいるんですか?』
『ユニコちゃん幻覚見えてない?』
あたしの声質でお姉さんキャラが無理なのは分かってるけど、まさか過半数――というか九割近くの人に否定されるとは思わなかった。
今後どんな事情があろうとも、お姉さん路線への移行は考えない方がよさそうだ。
途中で水を飲んだりのど飴を舐めたりしつつ雑談を続け、今日は夜にも配信する予定なので、開始からちょうど二時間ぐらい経った辺りでこの配信を終える。
いろんな話題で楽しくおしゃべりできたのはよかったけど、まさかその中でもゴキブリの話が一時間近く続くとは思ってもみなかった。
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