第21話 健康的な朝

 幸いにも、あたしとミミちゃんはこれまで大きなケガや重い病気とは無縁で生きてきた。

 だけど、これからもそうであるという保証はどこにもない。

 Vtuber活動が楽しいということは胸を張って断言できるものの、つらいことがないと言えば嘘になるし、大人の事情で我慢しなきゃいけないこともたくさんある。

 このまま不規則な生活や運動不足が続けば、決して低くはない確率で体を壊すだろう。

 Vtuberとして配信するのはあたしにとって仕事であると同時に趣味であり生き甲斐でもあるので、できるだけ長く続けていきたい。

 たとえ思い付きだろうと付け焼刃だろうと、健康のためになにかしたいという気持ちは常日頃から抱いている。

 というわけで――


「ミミちゃん、いまから公園を散歩しよう!」


 珍しく二人そろって朝にしっかりと目を覚まし、朝ごはんもちゃんと食べた。

 近所に広々とした運動公園があるので、散歩をするのにちょうどいい。


「いいですね。最近あんまり運動してないですし、少し長めに歩きましょうか」


 ミミちゃんからも二つ返事で了承を貰い、あたしたちはパジャマから動きやすい服に着替えてさっそく出発する。

 マンションのエントランスを出ると、頭上には青空が広がり、眩いばかりの陽光が街を照らしていた。

 快晴とはいえ気温はそれほど高くない。それに心地よい風が吹いていて、まさに絶好の散歩日和と言える。


「おっぱいが揺れて痛くなったら、すぐに言ってね。あたしが後ろから支えるからっ」


「ありがとうございます。スポブラを着けてきたので、走ったりしなければ平気ですよ」


「そっか、それなら安心だね。健康のために今後も運動することを考えて、あたしも胸の揺れを抑えるためにスポブラ買おうかなぁ」


「え?」


「え?」


 ミミちゃんが意外そうな声を上げたので、あたしもそれに対して思わず同じ反応を返してしまった。

 そうこうしているうちに公園の敷地に入り、ジョギングコースとして使われている芝生広場の外周をてくてく歩く。


「ところでミミちゃん。さっき、あたしの胸は揺れないだろって思った? 運動用にスポブラを買うのは分かるけど、胸の揺れとは無関係だって思った?」


「っ!? お、おおお、思ってないですっ」


 率直な疑問をぶつけると、ミミちゃんは大慌てで否定した。


「ほんとに?」


「はいっ」


「もし嘘だったら、久しぶりに“例のアレ”、やっちゃうよ?」


 例のアレとは、率直に言えばエッチする際のとあるプレイを指す。

 思い返した際に顔から火が出るほど恥ずかしくなるような内容なので、行う頻度はそれほど高くない。

 いざ始まればミミちゃんもすごく喜んでくれるとはいえ、素面の時に望むかどうかは話が別だ。


「ひぅっ……ご、ごめんなさい、実は、ちょっとだけ、思ってました」


「まぁ、あたしの胸が揺れと無縁だってことは、ミミちゃんが一番分かってるもんね~」


 あたしの体だから当然ながら毎日鏡で見ているものの、実際に触れて感触を確かめる機会はミミちゃんの方が圧倒的に多い。

 逆に、ミミちゃんの胸はあたしの方が本人の何十倍も多く触っている。

 人に言えるような話じゃないけど、自分の体を好きな人がたくさん触ってくれるのって、すごく幸せなことだと思う。


「胸に限らず、ユニコちゃんのことならわたしが誰よりも詳しいですよ」


 先ほどまでと比べ、声に並々ならぬ自信が宿っている。


「じゃあ、より一層お互いのことを知るために、帰ったらシャワーを浴びながら触りっこする?」


 まぁ、これは建前だ。

 あたしたちはすでに、頭のてっぺんから足の先まで――それこそ自分では触らないようなところまで、相手の体を触り尽くしている。

 朝から淫らだとは思うけど、学生時代からずっと念願だった同棲生活なのだから、多少羽目を外したところで罰は当たらないはずだ。


「そうですね、もしかしたら新しい発見があるかもしれませんし」


 ミミちゃんが少し照れた声でそう答える。

 あたしたちはしばらく散歩を続け、ほどよく汗をかいたところでマンションに戻った。

 ミミちゃんは汗をかいていてもいい匂いがするんだけど、ともすればあたしが変態扱いされることになるので、配信で話すかどうかは悩みどころである。

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