第195話 夏の大型コラボ!⑧
エリ虐したり反撃に遭ったりして、場はいい感じに温まっている。
「改めて確認するけど……エリナ先輩、シュールストレミングの件は本当に冗談なんだよね?」
「もちろん。からかわれたから、軽くやり返しただけよ」
あたしの質問に対するエリナ先輩の答えに、この場にいる全員が安堵のため息を漏らした。
シュールストレミングと聞いてザワザワしていたコメント欄も、次第に落ち着きを取り戻していく。
「ではでは、気を取り直してかき氷パーティーを始めるよ~!」
そう宣言すると、同席している仲間たちがSEに負けないぐらい派手な拍手で盛り上げてくれた。
あたしも混ざって数秒ほど拍手を続けた後、進行のため手を止めて口を開く。
「完成するまでなにができるか分からないっていうのも面白いんだけど、今日はあえて最初に発表しちゃうよ! もし家にある材料で作れそうだったら、リスナーさんたちも同じ物を作ってみてね~。それでは例のごとく、デビュー順にエリナ先輩から――と見せかけて、今日は逆にスノウちゃんから発表してもらおうかな!」
「えっ、アタシが最後!?」
よほど予想外だったのか、エリナ先輩がやたらと動揺している。
「うんっ。いつもトップバッターだから、今回は大取を任せるね!」
なにかとデビュー順になりがちなので、今回は趣向を変えてみた。
二期生のあたしとミミちゃんは、デビュー順だとどっちからスタートしても真ん中だからあんまり変わらない。
後輩が増えたら別だけど、それはまだしばらく先の話だ。
あたしが指定した通りスノウちゃんから順に、各々の前に置かれた袋の中から材料を取り出しながら自分流かき氷の説明を始める。
「ボクが作るのは、ボクが得意とする魔法を連想させる三色かき氷だよ。イチゴジャムで炎魔法を、ブルーハワイシロップで氷魔法を、レモンシロップで雷魔法を表しているんだ」
スノウちゃんが取り出したのは、ジャムの瓶が一つとシロップのボトルが二本。
カラフルなかき氷になることが想像できる。
「ネココは猫っぽく魚や鶏肉にしようかと思ったけど、さすがにやめたにゃ。で、髪色に合わせてピンクっぽい物を考えたけどいい案が浮かばにゃくて、実家から大量に送られてきた桃を持ってきたにゃ」
ネココちゃんの袋からは、十個近くの桃が出てきた。
桃を大量にトッピングしたかき氷は間違いなくおいしい。
「わたしは苗字が闇神なので、闇と言えば黒ということで名前に黒が付く物でそろえてみました。黒蜜シロップと、甘く煮た黒豆、それと粒が荒めの黒糖を使います」
こうして聞いてみると、なかなかに渋いラインナップだ。
ちなみに、黒豆は市販のものではなくミミちゃんの手作り。あたしも少しだけ手伝った。
「次はあたしだね! ユニコーンと言えば白いイメージだから、濃いめに作ったカル●スをシロップの代わりに使って、白玉とマシュマロをトッピングして最後に練乳をかけるよ!」
甘いのが苦手という人は、カ●ピスを薄めに作ったり練乳を控えめにすることで調整できる。
「みんなも知ってる通り、シャテーニュといえば栗。というわけで、コンビニで買った甘栗と、通販で取り寄せたかき氷用の栗シロップを持ってきたよー」
かき氷用の栗シロップがあることを初めて知ったけど、栗シロップっていう名前がもうおいしそう。
この後の実食コーナーで気に入ったら、あたしも取り寄せてみようかな。
「……アタシが用意したのは、宇治抹茶金時の材料よ。ただ単にアタシが食べたいだけで、奇をてらったコンセプトはないわ。責めたければ責めなさい! 自分が食べたいかき氷を作ってシェアするだけの企画だと思ってたのよ!」
エリナ先輩は若干言い淀んだ後、吹っ切れたようにまくし立てた。
なるほど、だからさっき一番手ではなく最後に発表することになって動揺してたんだ。
ネココちゃんが苦肉の策として桃を持参したことを除けば、スノウちゃんが魔法、ミミちゃんとあたしは自分のイメージカラー、シャテーニュ先輩が自身の名前にもある栗と、それぞれ明確なコンセプトに沿って材料をそろえている。
まぁ、あくまで『おいしいと思うかき氷を作ってシェアする企画』だから、奇をてらう必要はないんだけどね。
「こういう時に限って大取を任せられるなんて、さすがエリナ。持ってるねー」
「喜んでいいのか分からないけど、ここは素直に誉め言葉として受け取っておくわ」
シャテーニュ先輩の言う通り、エリナ先輩は配信者として特別ななにかを持っている。
あたしが今回たまたま普段と逆の順番にしようと言い出したことすらも、ある種の運命なんじゃないかと感じてしまう。
「紹介も済んだところで、次はいよいよ実際に作って食べるコーナーだよ! リスナーさん、材料を冷蔵庫から取ってくるならいまのうちだからね!」
トッピング用のマシュマロをつまみ食いしたい気持ちを抑えつつ、あたしはメインMCとしての職務を果たす。
待ちに待った実食の時間は、もうすぐそこまで迫っている。
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