第13話 有言実行
一度約束を交わした以上、そこには責任と義務が生じる。
強要された場合などの例外を除き、約束を守るのは人として当たり前のこと。
昨日の晩酌配信でリスナーさんとの勝負に負けて、今日のお昼――つまりいまから始めるミミちゃんとのコラボ配信の前に、スクワットを十回やらなければならない。
早口言葉を三回連続で噛まずに言えたら勝ちっていうルールだったんだけど、負けたら罰ゲームなのに勝ってもご褒美はない。言い出しっぺはあたし。
酔っていたとはいえ、なぜあんな勝負を持ちかけたのか。
無自覚なだけで自分にはМっ気があるんじゃないかとすら思えてくる。
「さてと、それじゃあ始めようかな~」
この家において最も開けた場所が確保できるのは和室だ。
自室はパソコンとかゲーム機や各種機材にベッドなどがあり、リビングにはテーブルやソファ、ダイニングにはファンの皆様から頂いたプレゼントの段ボール、キッチンは言わずもがな、浴室や脱衣所やトイレは論外。
見届け人としてミミちゃんを呼び、念のため軽く準備運動をしてから肩幅に足を開く。
「しっかり腰を下ろさないと一回にカウントしませんよ」
「えっ、ミミちゃん地味に厳しくない?」
「ふふっ、冗談です。くれぐれもケガには気を付けてくださいね」
お茶目なミミちゃんも実にかわいい。
「んっ、しょっ」
両手を後頭部に当て、ゆっくりと腰を落とす。
太ももが地面と水平になったら、元の姿勢に戻る。
一応事前にスクワットのやり方を調べておいたので、間違ってはいないはず。
ケガを防ぐためには、膝をつま先より前に出さないようにするのが重要らしい。
「あと九回、ファイトですっ」
ミミちゃんの声援に元気を貰い、続けて二回目を行う。
昔から体を動かすのが好きで運動もそれなりに得意なので、それほど苦痛には感じない。
この機会にスクワットを日課にするのもいいかな、なんてことを考えながら回数をこなしていく。
「……ふっ、うぅっ……んっ、はぅ、ぐっ」
七回目を終える頃にはもう、先ほどの考えは丸めて意識の隅に捨ててしまっていた。
「だ、大丈夫ですか?」
「だ、だいじょぶ、まだまだ、よゆー」
見た目では分からないけど、太ももがプルプル震えてる気がする。
残すところ、たったの三回。
されど三回と言うべきか、八回目、九回目と意地で乗り越え、ミミちゃんからの応援を力に変えてどうにか十回目をやり遂げた。
***
ミミちゃんとのオフコラボ配信を開始し、あいさつを終えてから間髪入れずに口を開く。
「みんなっ、約束通りスクワット十回やったよ! 褒めて! めちゃくちゃキツかったから、とにかく褒めて!」
あたしの気持ちを汲み取ってくれたリスナーさんたちが、目で追いきれないほどの速さで称賛のコメントを送ってくれる。
隣ではミミちゃんがパチパチと拍手してくれて、スクワット十回を完遂した瞬間に感じた以上の達成感を味わった。
「えへへっ、みんなありがとう! 頑張ったご褒美に、配信が終わったらミミちゃんのおっぱい触らせてもらお~っと♪」
「えっ!? そ、そんなの聞いてないんですけど!?」
嬉しさのあまり余計な一言が口を滑り、ミミちゃんを驚かせてしまう。
リスナーさんたちからは辛辣なコメントが送られてきたので、腹いせにミミちゃんの太ももをこれでもかというほど撫で回させてもらった。ごめんねミミちゃん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます