第141話 同時視聴オフコラボの役得①

「みんな、こんユニ~! 今日はホラー映画の同時視聴! コーラとポップコーンは用意した?」


 これからホラー映画を見るとは思えない陽気なテンションで、あたしは配信開始のあいさつを口にした。

 今回はただの同時視聴ではなく、ミミちゃんとのオフコラボでもある。

 あたしに続いてあいさつを告げたミミちゃんの表情は、いつもと比べてわずかに暗い。


『こんユニ~』

『悲鳴楽しみ』

『鼓膜の準備はできてるから思いっきり叫んでね』


「リスナーさんの中に歪んだ性癖の持ち主がいるね~。そんなこと言って、悲鳴で鼓膜どころか脳まで破裂しても知らないよ!」


『ホラー映画よりグロいこと言ってて草』

『脳の予備はまだ用意してなかった』


 などと軽口を叩き合いつつ、いよいよ映画の視聴を始める。

 今日見るのは、大学のホラー同好会が山奥の廃屋で肝試し兼合宿をするというもの。


「合図したら再生してね! さん、に、いち、スタートって言うから、スタートの『タ』のところで!」


「ゆ、ユニコちゃん、それはちょっと分かりづらくないですか?」


「ごめんごめん、ちょっとふざけてみた。さっきのは冗談で、スタートの『ト』のところに合わせてね~」


『了解』

『おっけー』

『分かった』


「それじゃあ――スリー、ツー、ワン、スタート!」


 カウントダウンをいきなり英語に変更したことで多少のざわつきが生まれたものの、動揺してタイミングを間違えたという人はいないようで助かった。


「ユニコちゃん、もしかしてもう怖くなってます?」


「えっ? そ、そんなことないよっ」


 と言いつつも、実際のところすでに怖い。

 まだ舞台となる山奥の古びた日本家屋が映っただけなのに、背中の辺りがゾワゾワする。


「あっ、なんか明るい感じになった」


「楽しそうですね」


 広間に集まった主要人物たちが持ってきたお菓子を広げ、ささやかな宴会を始めた。

 誰がどう見てもホラーとは無縁の雰囲気なんだけど、それが逆に不安を煽り、あたしとミミちゃんは無意識のうちに肩が触れ合う距離にまで近寄っている。


「ひぅっ」


 ホラー展開に切り替わるスイッチを押すかのように停電が起こり、映画の登場人物と同じタイミングでミミちゃんが小さな悲鳴を漏らす。


『始まったな』

『ありがちな導入だけど普通に怖い』


「た、確かに、これはドキドキするね……」


 リスナーさんのコメントに対するあたしの言葉には、二つの意味が込められている。

 一つは、映画の内容について。

 もう一つは、ミミちゃんの反応について。

 先ほどの停電シーン以降、ミミちゃんがあたしの手をギュッと握っている。

 こっそり表情を覗き込むと、悲鳴を堪えるように唇をキュッと結んで映画に見入っていた。

 序盤でこれなら、最終的には恐怖のあまりハグからのキスとか――いや、さすがにそれは期待しすぎだよね。

 とにかく、あたしは二重の意味でドキドキワクワクしながら画面に視線を戻した。

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