第6話 背徳的な愉悦

 自室のベッドに寝転がり、手に持ったスマホに視線を注ぐ。

 イヤホンから流れてくるのは恐怖心を誘う音楽と、普段よりも弱々しい恋人の声。

 つまるところ、あたしはいま、ミミちゃんのホラゲー実況配信を視聴している。

 最近発表されたフリーゲームで、洞窟に閉じ込められた主人公を脱出に導くという内容だ。

 リアクションを誘って配信を盛り上げてくれる要素が各所に散りばめられている。


『――ひゃあぁぁぁあああぁあぁああっっ!!』


 鼓膜が弾け飛んだんじゃないかと思ってしまうほどの絶叫が、イヤホン越しに耳を襲った。

 日常生活ではまず聞くことのない、ミミちゃんの悲痛な叫び声だ。

 愛する人が恐怖のあまり悲鳴を上げるというのは、恋人として決して喜ばしい状況ではない。

 でも、ミミちゃんがビックリする様子はなんともかわいらしく、得も言われぬ高揚感を覚えてしまう。

 この背徳的な昂りもまた、ホラーゲームの実況が人気を博す要因の一つなのだろう。


「ミミちゃん、頑張って」


 本人に届くはずもないけれど、愛するミミちゃんに声援を送る。

 ついでに、『悲鳴もかわいい!』というコメントも送っておこう。


『こ、こここ、ここ、さ、さっきも通りましたよね? ど、どっちに行けば……え? ゆ、ユニコちゃんもよく見てる? え、えっと、ユニコちゃんのコメントは……』


 あたしがコメントを送ったことに対し、ミミちゃんの配信を見ていたリスナーさんたちが反応した。

 それに気付いたミミちゃんがコメント欄を遡り、あたしのコメントを探す。


『悲鳴もかわいい、じゃないですよ! ユニコちゃんもこのゲームやってみてください! いえ、絶対にやってもらいますからね!』


『いいけど、ミミちゃんの太もも撫でながらやりたいな(^^)』


 ミミちゃんの発言に、間髪入れずコメントで答える。


『セクハラ』

『草』

『欲望に忠実で草』

『セクハラ』

『セクハラ』

『通報しました』

『セクハラ』


「そこまで言う!?」


 闇の民さんの辛辣なコメント群を見て、思わず声に出して反応してしまう。

 っと、さすがにこれ以上は配信の邪魔になるかな。


『陰ながら応援してるね!』


 そうコメントしてから、改めて一視聴者として配信を楽しませてもらう。

 途中で投げ出したりせず、コツコツと探索を進めていくミミちゃん。

 予定していた時間を少し超えながらも、無事にゲームをクリアした。

 あたしは部屋を出てリビングへ移動し、泣きそうになりながらも最後まで頑張ったミミちゃんのために、紅茶とアイスを用意する。

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