第5話 ネタは思いも寄らないところから

 今日の配信についてのことなんかを話しつつ、あたしとミミちゃんは近所のコンビニへと足を運んだ。

 人前に出ても恥ずかしくない程度のラフな格好で、空調の効いた店内を歩き回る。


「ミミちゃん、お酒買ってく?」


「冷蔵庫にまだ何本か残ってるので、今日はいいです」


 Vtuberとしては年齢不詳というか長生きしすぎて年齢が分からないということになっているけど、当然ながら三次元でのあたしたちは年齢がハッキリしている。

 二人とも成人しているので、飲酒しても罰せられることはない。

 リスナーさんたちは信じてくれないけど、運転免許だって持っている。


「ごめん、実は全部飲んじゃった。奢るから許して」


 手を合わせて謝ると、ミミちゃんは「仕方ないですね」と呆れながらも快く許してくれた。


「あと、約束してたアイスも買わないとね。好きなの選んでいいよ。ハーゲンダ●ツでもOK」


「ありがとうございますっ」


 店内なので声量は控え目だけど、瞳を爛々と輝かせて喜んでいる。

 あぁ、ミミちゃんってほんとにかわいい。

 今夜あたり、誘ってみようかな……。

 なんてことを考えつつ、一旦ミミちゃんと別行動を取って目的の品をカゴに入れていく。

 綿棒、ナプキン、ガムテープ、ビニール手袋、ジュース、お菓子。


「どれにするか決まった?」


 重量を増したカゴを手に、アイス売り場でミミちゃんに声をかける。


「はい、これにしますっ」


 差し出されたのは、クリームブリュレ風のアイスクリーム。

 買う物も揃ったところで、レジへと向かう。

 このコンビニにはそれなりの頻度で来るので、店員さんの顔ぶれもそれなりに把握している。

 どうやら新人さんが入ったらしく、カウンターの向こう側に立つ店員さんの名札には『研修中』という文字が。


「いらっしゃいませ! お嬢ちゃん、ごめんね。これはお酒だから売れないの」


 元気のいいあいさつの後、申し訳なさそうな声音で謝られてしまった。

 年齢の割に幼く見られがちなので、こういうことには慣れっこだ。

 あたしはいつものように免許証を見せるべく、財布を取り出そうとポケットをまさぐる。


「あれ?」


 ない。

 ついでにスマホも家に忘れてきたっぽい。

 これではお酒はもちろん、他の商品も買えない。

 すがるように隣を見ると、ミミちゃんもまた青ざめた顔でこちらを見ている。


「す、すみませんっ、数分で戻ります!」


 あたしとミミちゃんは財布を忘れた旨を店員さんに告げた後、カゴを一旦置いて全速力で自宅に向かった。

 年齢確認されたこと、財布を忘れたこと。

 決して狙っていたわけではないけど、配信で使えそうなネタが二つも手に入ってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る