第72話 自宅でドリンクバー
「みんな、こんユニ~! 今日は晩酌ならぬ、ドリンクバー配信をするよ!」
いつものあいさつと配信内容を告げ、マイクの近くにコップを置く。
パソコンデスクのそばに寄せたローテーブルには、ペットボトルや紙パックのジュースが数本並んでいる。
「ドリンクバーって言っても、もちろんファミレスとかで配信してるわけじゃないよ? 自分の部屋でいろんな種類のジュースを飲むってだけだから、安心してね~」
『なるほどー』
『お酒じゃないんだね』
『ドリンクバー(酒)かと思ってた』
「いろんなお酒を飲み比べる配信も面白いかなって思ったんだけど、あたしってそこまでお酒に強くないから、無理せずジュースにしようって結論になったの」
『言われてみればお酒に強いイメージないかも』
『無理しないのは正解』
「ミミちゃんもあたしと同じぐらいしか飲めないから、二人ともほろ●いシリーズをよく買ってるよ~。あと、何気にビールもけっこう飲んでるね。たまに日本酒とかワインも飲むけど、ホントにちびちび舐めるように嗜んでる感じかな」
お酒を飲まない配信だけど、あたしとミミちゃんのお酒に関する情報を開示していく。
『ほろ●いいいよね』
『知らなかった』
『声はロリなのに話の内容は大人だ』
『情報提供助かる』
「さてと、それじゃあ一杯目を注いでいくよ! ドリンクバーと言えば、ジュースを混ぜなきゃ始まらないよね!」
『発想が子どもで草』
『気持ちは分かる』
『学生の時に部活仲間とよくやった』
『意味不明なジュースを作ってほしい』
ローテーブルからジンジャーエールとアップルジュースを選び、手元に移す。
ジンジャーエールはペットボトル、アップルジュースは紙パックに入っている。
まずジンジャーエールを手に取り、ペットボトルをマイクに近付けてからキャップを開けてコップに注ぐ。
『あ~、いい音』
『この音好き』
『炭酸飲みたくなってきたなぁ』
「はいっ、というわけでジンジャーエールをコップの三分の二ぐらいまで注いだよ~。いつものマイクだから昨日とは音質が違うと思うけど、ジュースを注ぐ時はASMR配信のつもりで楽しんでね!」
ジンジャーエールをローテーブルに戻し、続いてアップルジュースを開封してコップに注ぎ足す。
「アップルジュースを足して、特製ジュースの完成~! そうだっ、せっかくだから乾杯しようよ! リスナーさんたち、いますぐジュースかお酒用意して! 二分間待ってあげるから!」
『えっ』
『すぐ取ってくる』
『どこぞの大佐より厳しいんだが』
『せめて三分間待ってくれ』
『急げー』
『コーヒー飲んでる途中でよかった』
『電車の中だから気持ちだけ乾杯する』
二分待ってから、追加で三分間待つ。
最初から五分と言っておけばよかったと反省し、焦らせてしまったことをリスナーさんたちに謝罪。
気を取り直してコップを持ち、マイクに軽く当てる。
「かんぱ~い!」
ゴクゴクとのどを鳴らし、一気に飲み干す。
あたしの場合、間違ってもお酒でこの飲み方をしてはいけない。ほとんど確実と言ってもいい確率で体調を崩してしまうから。
「ぷは~っ、おいしい! やっぱり暑い時期には冷たいジュースだよね!」
あたしは空になったコップに、オレンジジュースとアップルジュースを一対一の割合で注いだ。
おいしい組み合わせや挑戦的な組み合わせについて話しつつ、杯を重ねる。
途中で用を足しに離席した際、ミミちゃんと廊下で顔を合わせたのでハグしてキスしてミミちゃん成分を補給しておいた。
余談だけど、後で聞いた話によると、あたしはこの配信中だけで三回トイレに行ったらしい。
しかも飲みすぎて配信後にお腹を壊し、ミミちゃんに心配をかけてしまった。
「うぅ、お腹痛い」
「飲みすぎには気を付けてくださいね」
優しく注意しながら、お腹をさすってくれるミミちゃん。
「つらいけどミミちゃんにお腹を撫でてもらえるから、悪いことばかりでもないねっ」
「……反省してくださいね?」
「はっ、はいっ、心の底から反省いたします!」
ミミちゃんの笑顔に言い知れぬ迫力を感じ、思わず返事が敬語になる。
その後あたしは、SNSで『みんなも飲みすぎには気を付けよう!』と投稿するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます