第71話 みんなに涼しさを届けたい

 時期的に仕方ないとはいえ、最近は蒸し暑い日がずっと続いている。

 というわけで、今日はミミちゃんと一緒に少しでも清涼感を味わってもらうためのアイス実食ASMR配信を行うことにした。


「みんな、こんユニ~。今日はASMRだから、声量抑え目でいくよ~」


 ASMR用に二人でお金を出し合って購入した高性能ダミーヘッドマイクに口を近付け、耳元で囁くようにあいさつする。


「みなさん、こんユニです。ユニコちゃんとのASMRコラボ、ぜひ最後まで楽しんでくださいね」


 ミミちゃんの吐息多めの囁きボイス……控え目に言って最高!

 イヤホン越しに聞くともっとすごいのかな?

 土下座してお願いしたら、実際に耳元で囁いてもらえたりするかな?

よし、配信が終わったらお願いしてみよう。


「それじゃあ、『あーん』って食べさせる声と、アイスを咀嚼する音を聞いてもらうよ」


 前置きを告げてから、先ほど冷凍庫から出したばかりのアイスをミミちゃんに持ってもらう。


「ユニコちゃん、あーん」


 ミミちゃんはダミーヘッドマイクの左耳部分に口を近付けたまま、ソーダ味のアイスをあたしの口元へと差し出す。


「あーん」


 アイスに歯を立て、マイクのそばで咀嚼する。


『いい音』

『てぇてぇ』

『アイス食べたくなってきた』

『これは有料級』


「ユニコちゃん、見てください。リスナーさんたち喜んでくれてますよ」


「えっ、ホント? やった~!」


 と、声を弾ませた後に「あっ」と気付く。

 マイクの近くで大声出しちゃった……。


『あれ? 左耳が聞こえなくなった』

『左の鼓膜どっか行った』

『ミュートかな?』


「ご、ごめんね、テンション上がって、つい普通にしゃべっちゃった」


 リスナーさんたちの鼓膜のためにも、きちんと気を付けないと。


『鼓膜の予備があるから大丈夫』

『もう再生した』

『仕方ない』

『ユニコちゃんの声で破壊されるなら本望』

『慰謝料としてかわいいセリフをお願いします』


「鼓膜って替えが利いたりすぐに再生したりするものでしたっけ?」


「ミミちゃん、リスナーさんたちは人間を超越した存在なんだよ。悲しい過去や大きな壁を乗り越えて、超人じみた体質を手に入れたんじゃないかな」


「なるほど、そうだったんですね……」


『いやいやいやいや、それはない』

『wwwww』

『ちょっと待て』

『いきなり裏設定作られたんだが』

『普通の人間です』

『神妙な感じで囁くのやめてw』

『ミミちゃんもノリノリで草』


「さてと、気を取り直してアイス食べよっか。次はミミちゃんが食べる番だよ~」


 リスナーさんには説明してなかったけど、あたしとミミちゃんが交互に食べさせ合うことになっている。

 アイスはこれ一本しか用意していないので、仲よく半分こだ。


「はい、あ~ん」


「あーん」


『てぇてぇ』

『これもしかして間接キス?』

『後でアイス買いにコンビニ行こう』

『アイスって同じ物を交互に食べてるの?』

『せっかくのASMRだけど間接キスかどうかが気になりすぎる』


 コメント欄に目をやると、音に対する反応よりも間接キスについてのコメントが多くなっていた。

 涼しさを届けるつもりが、意図せずヒートアップさせる結果に。

 本来の趣旨からは多少ずれてしまったけど、みんなが盛り上がってくれたから一切問題なし。

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