第84話 2日目、エリナ先輩とコラボ!

 コラボウィークの二日目は、エリナ先輩とのゲームコラボ。

 配信開始の三十分前から通話をつなぎ、最近の出来事なんかを話しつつ準備を進めていた。

 エリナ先輩は学校が夏休みに入り、八月末ぐらいまではいままでより高頻度で配信するとのこと。


「みんな、こんユニ~! 今日はエリナ先輩と一緒に謎解き脱出ゲームをプレイするよ~!」


「豚共、ごきげんよう。アタシと言えば調教って思ってる人も多いみたいだけど、今日は調教じゃなく協力していくわ」


 本日プレイするのは、トラップだらけの館に閉じ込められたプレイヤーが各部屋の仕掛けを解いて脱出するというシンプルなブラウザゲームだ。

 ゲームのレビューいわく、簡単ではないけど匙を投げたくなるほど難易度が高いというわけでもないらしい。


「あいさつも済んだところで、さっそく始めよう!」


「いつでもいいわよ」


 ホスト側であるあたしが協力プレイ用のパスワードをエリナ先輩にチャットで伝え、二人そろったのを確認してからゲーム画面を配信に映す。

 無料とは思えないクオリティのオープニング映像が流れ、短めのチュートリアルを経て最初の謎解きが始まった。

 各部屋に仕掛けられたトラップを解除していき、すべての部屋でそれを完了すると大広間の扉が開いて脱出できる。

 スタート地点は屋根裏部屋。下に続く階段が見えたので、とりあえず降り――


「あっ」


 ――ようとしたところ、あたしが操作するプレイヤーはトラップにかかって人ではない別の物体に成り果ててしまった。

 控え目な描写ではあるけど、なかなかグロい……。

 プレイヤーのどちらかがトラップにかかると即ゲームオーバーとなり、その部屋の初期位置からやり直しとなる。


「ユニコ、微塵もトラップの存在を疑ってなかったわね」


「ちっ、違うよ! 迂闊に先走るとこうなるよって、身をもってリスナーさんたちに教えただけだもん!」


 あまりにも苦しい言い訳に、コメント欄に大量の草が生えた。


「さてと、気を取り直して謎解きしていこ~」


「まずはキーアイテムを見付けるわよ」


 トラップを解除するには、部屋に仕掛けられた謎を解いてキーアイテムを入手する必要がある。

 部屋の出口付近に立ってアイテム欄にあるキーアイテムを使用するとパズル画面が表示され、それを解くことで次の部屋へ移動することができる。

 あたしとエリナ先輩は部屋中を歩き回り、チェックできる場所を次々と調べていった。


「なるほど、これをこうして……さっきのパーツを使って……よし、完成したわっ」


 キーアイテムの場所を探偵じみた閃きと推理で見つけ出し、トラップ解除のパズルもサクッとクリアしたエリナ先輩。


「ひゅ~っ、さすがっすよエリナ先輩!」


「取って付けたような後輩キャラはやめなさい。次はあんたの活躍に期待してるわよ」


「任せてっ」


 画面が暗転し、屋根裏部屋から寝室へとステージが変わる。

 扉に直行してゲームオーバーを体験してみたい気もするけど、さすがに自重しよう。

さて、まずは無難にベッドを調べてみようかな。


「ベッドにはなさそうだね~。さすがに安直すぎたかな」


「そうでもないわよ。このベッド、動かせるみたい」


 エリナ先輩がそう言いもってベッドを動かすと、効果音と共にアイテムボックスが出現した。


「さすがエリナ先輩っ、冴えてるね!」


「ふっ、当然よ。これからはアタシのことを天才と呼びなさい」


「よっ、天才! 今世紀最高の天才!」


『天才』

『エリナちゃん天才』

『天才さすが』

『天才という言葉はエリナ様のためにある』


 ちょっと大げさに茶化してみたら、リスナーさんたちも便乗してくれた。


「じょ、冗談よっ、別に呼ばなくていいわ! だいたい、いまのはユニコのおかげで気付けたってだけで、アタシが特別冴えてたわけじゃないから!」


 慌てて前言撤回するエリナ先輩。

 通話だから顔は見えないけど、きっと真っ赤になってるんだろうな~。


***


 屋根裏から始まり、寝室のある三階から二階の客間など数部屋の謎を解き明かした。

 後半になるにつれて出口以外の場所にもトラップが用意されるようになって何度かゲームオーバーになってしまったものの、同じ部屋で延々と拘束されるようなことはなく、程よいテンポで進められている。

 現在挑戦しているのは、一階にある厨房の仕掛けだ。

 ここまでのプレイで名探偵とまで呼ばれるようになったエリナ先輩が苦戦を強いられていることから、ゲームも終盤に近付いていることが分かる。


「う~ん……ダメだ~、全然分かんない!」


 二度のゲームオーバーを経て、キーアイテムはどうにか取得できた。

 ただ、出口の扉に仕掛けられたパズルが解けない。


「いっそ力づくでなんとかならないかな?」


「なんとかなったらゲーム性が破綻するわよ」


 的確なツッコミに「だよね~」と納得しつつ、物は試しにキャラクターをでたらめに動かしてみる。

 ともすれば踊り狂ってるようにも見える奇妙な光景を目にしながら、ふと気付く。


「――あれ? エリナ先輩、トラップが発動しないよ?」


 キーアイテムを使用せずに扉へ近付けば、最初の部屋で体験したように問答無用でトラップが作動して即ゲームオーバーになるはずだ。


「というか、これ……普通に進めちゃうわね」


「あっ、ホントだ!」


『進めるのか』

『ゴリ押しw』

『ユニコちゃん有言実行してて草』

『扉の前で意味不明な動きをするのが隠し条件だった……それはないか』


 怪訝に思ったエリナ先輩が扉を調べた瞬間、厨房を抜け出して次の部屋へと移動した。

 使えば消えるキーアイテムは、アイテム欄に残ったままだ。

 バグであることは疑う余地もない。


「まさか本当に力づくで突破するとは思わなかったわ」


「ふふんっ、もっと褒めてくれてもいいよ~」


「いや、別に褒めたわけじゃないわよ」


 続く食堂での仕掛けを、四苦八苦しながらも協力して――主にエリナ先輩の活躍で――無事にクリア。

 いまのが最後のトラップだったらしく、画面が切り替わって特殊な演出が始まる。

 大広間から外へと通じる扉がゆっくりと開き、射し込む太陽の光に導かれるように足を進め、二人は見事に館からの脱出を果たした。


「やった~! クリアできた! あたしも頑張ったつもりだけど、やっぱりエリナ先輩の活躍が大きいね!」


 謙遜でも忖度でもなく、思ったことをそのまま口にする。

 あたし一人では、まず確実にクリアできなかった。


「ありがと。ただ、そう言ってもらえるのは嬉しいんだけど……この配信のハイライトはユニコのゴリ押しシーンで間違いないと思うわよ」


 エリナ先輩の言葉を裏付けるように、配信が終わって間もなく、件のシーンを切り抜いた動画が投稿されていた。

 他にも全体の見どころやゲームオーバーになるところを集めた動画など、いろんな切り抜きがある。

 その中で目に付いた『名探偵エリナとゴリ押しユニコ』というタイトルには、言い得て妙だと感心してしまった。

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