第46話 今度はゲームの中で

 先日の料理配信では、結果的においしいカレーが完成したからよかったものの、当初の予定とは大きく異なる展開になってしまった。

 それを受けて、あたしとミミちゃんが何気にポンコツであるという噂がごく一部のリスナーさんたちの間でまことしやかに囁かれ始めている。

 というわけで、料理ゲームをプレイして名誉挽回することにした。

 ……昨日の夜に配信を終えてお酒を飲んでいる途中に思い付いたことだから、ツッコミは受け付けない。


「みんな、おはユニ~! 朝ごはんの時間だよ! あっと驚くような手際のよさを見せ付けちゃうから、この配信が終わる頃には、あたしのことをシェフって呼ぶことになるかもね~。ちなみに、最高評価をもらうまで終われない耐久配信だよ!」


『おはユニ』

『おはユニー』

『いまのうちにシェフに謝った方がいいよ』

『おはユニ』

『シェフは無理がある』

『ゲームだけど材料はしっかり確認してね』

『ユニコちゃんが作った朝ごはん食べたい』


 あいさつをはじめとした様々なコメントに目を通しつつ、あたしはパソコンを操作してゲームを起動する。

 ゲームの内容は、まず作りたい料理を選び、表示されたレシピを見て必要な材料を用意し、適切な調理器具を用いて正しい順番で調理を進めていくというもの。

 実際の料理と明確に違うのは、工夫や応用が利かないということ。

 少しのミスが命取り。高評価はおろか、完成にすら至れない可能性がある。


「それじゃ、さっそく始めよ~。告知をした時から予想してた人も多いと思うけど、今回はシチューを作るよ!」


 メニューの中からシチューを選択し、拡大表示されたレシピに目を通す。

 所要時間も評価に関わってくるので、レシピを縮小表示に切り替えて材料集めに取りかかる。


「えっと、タマネギはこっちで、ジャガイモはあっち、お肉は冷蔵庫、っと――」


 時折コメント欄の様子もチェックしながら、絶え間なく手を動かす。

 包丁の操作は若干クセのある挙動を示したものの、どうにかコツをつかむことができた。


『安心して見てられる』

『手際いいね』

『これはシェフって呼ぶことになるかも』


「あははっ、みんなようやく分かったみたいだね~。ほらほら、もっとあたしを褒めたたえてよっ」


『集中してください』

『イキるな』

『調子に乗ってると痛い目見るよ』


「しっ、辛辣すぎない!? うぅ、いいもん……最高評価を叩き出してから、存分にイキり散らかすもん」


 プロレスであることは重々承知しているので、わざとらしく落ち込んだ声を出してつぶやく。

 最高評価は無理だとしても、この調子ならそれなりの高評価を得られそうだ。

 万が一失敗したら、その時は再チャレンジするのみ。


***


 それなりの高評価を得られるだろうという予想を浮かべてから、ほんの数分足らず。

 配信開始から言えば、ちょうど十分が経過した頃――


「や、やったー……で、いいのかな?」


 マウスとキーボードから手を離し、形式上の喜びを口にした後、すぐさまそれに疑問をぶつける。

 要するにどういうことかと言うと――


「いきなり最高評価もらっちゃった。どうしよう、今日の目的達成しちゃったんだけど」


 ということだ。

 実のところ、初めてプレイするゲームということもあって、何度か失敗して納得のいく品を完成させるまで最低でも一時間はかかるんじゃないかと思っていた。

 運要素は皆無に等しいけど、ビギナーズラックに近いものを感じる。


「思ったより早めに終わったから、夜も配信しようかな~。夕方までには告知するねっ。それじゃあみんな、おつユニ~!」


 こうして、久々の耐久配信はほんの十分足らずで終了した。

 面白いゲームだったし、次は誰かとコラボして評価を競ったりしてみたいな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る