第68話 お風呂からお届け

 いま、あたしとミミちゃんは裸である。

 一糸まとわぬ、産まれたままの姿。

 上も下も隠さず、狭い密室に二人きり。

 体が触れそうで触れない、そんな絶妙な距離感で向かい合って座っている。

 頬は紅潮し体は火照り、明らかに服を着ていた時よりも体温が高い。

 いったい、これからなにが始まるのか――


「みんな、こんユニ~! 今日はお風呂から配信するよ!」


 そう、もちろん配信だ。

 今日は半身浴をしながら、ミミちゃんとおしゃべりしたり触り合ったりする。触り合うのは予定になくて個人的な願望に過ぎないけど、できれば実行に移したい。

 配信画面には、以前にいただいたファンアートを映している。

 あたしとミミちゃんが浴室で泡まみれになって遊んでいるイラストで、きちんと使用許可もいただいた。


『こんユニ~』

『二人でお風呂……てぇてぇ』

『のぼせないように気を付けてね』


「みなさん、こんユニですっ。ぬるめのお湯で半身浴しているので、安心してくださいね」


 半身浴と言えど長時間の入浴は体に悪いので、三十分ぐらいで上がるつもりだ。


「それじゃあ、さっそくだけどボディタッチのコーナーに行こうか。あたしがミミちゃんの体をひたすら触るから、エッチな声を出したらミミちゃんの負けってことで」


 ミミちゃんがあいさつを終えた瞬間、あたしは至極真面目な口調でそう告げる。


『ボ、ボディタッチ!?』

『BANされないか心配になってきた』

『ミミちゃんの勝利条件は?』

『私も彼女とそういうゲームしたいなぁ』

『雑談枠かと思ってた』


「いきなりそんな冗談を言ったら、リスナーさんたちが混乱しちゃいますよ」


「へ?」


「え?」


 冗談という言葉にキョトンとするあたしと、その反応に対して同じようにキョトンとするミミちゃん。

 沈黙が走ること約十秒。

頬を伝ってあごから滴り落ちた汗が、小さな水音を鳴らす。

 ちなみに、ミミちゃんの顔から流れた汗はお湯ではなくおっぱいの上に落ちるので、スマホのマイクが拾えるほどの音は出ない。

 防水ケースに入れて湯船の淵に立てかけている配信用のスマホをミミちゃんのおっぱいに近付ければ、あるいはわずかな音を拾うことも可能かもしれない。


「残念だけど、ボディタッチは配信の後までお預けだね」


 自然な流れで誘導すれば乗ってくれるかと思ったけど、冷静に考えたらさっきのは強引すぎた。

 さらに言えば、ミミちゃんの嬌声を聞いてあたしが暴走しない保証はどこにもないので、エッチな声を出したらミミちゃんの負けというルールはいろんな意味で危ない。

 ここは潔く、配信中の触り合いっこは自重しよう。


「はい、少しの間だけ我慢してください」


「じゃあ、デュエットはどう?」


「したいですっ」


「うん、いい返事っ。それじゃあ最初のコーナーはデュエットに決定~!」


『童謡でお願いします』

『童謡一択だね』

『浴室は声が響くから童謡以外は危険かも』

『ミミちゃんの童謡聞きたいな』

『ユニコちゃんとミミちゃんの童謡楽しみ』


「ミミちゃん、童謡でもいい?」


 リスナーさんの意見を尊重し、密かに言おうとしていた「今日はロックに挑戦したい!」という言葉は次の機会に持ち越すことにした。


「もちろんです。ユニコちゃんと一緒に歌えるなら、なんでも大歓迎ですよ」


 この屈託のない笑顔。かわいい。天使。いますぐハグしてキスしたい。


「みんなにもミミちゃんの優しさを見習ってほしいな~。確かにあたしが童謡以外を歌うとみんなの鼓膜を破壊しちゃうかもしれないけど、別に鼓膜の一枚や二枚いいじゃん」


『鬼かよ』

『五感を一つ失うんですが』

『サラッとエグいこと言ってて草』

『確かにミミちゃんは優しい』


「ユニコちゃん、なにを歌いますか?」


「『森のくまさん』とかどう?」


『かわいい選曲』

『いいねー』

『ユニコちゃんの童謡ガチで好き』

『ユニミミの童謡デュエットが無料で聞けるとか最高すぎる』


 曲が決まったので、さっそくアカペラで『森のくまさん』を仲よく二人で歌う。

 一人で歌うより何倍も楽しくて、ついつい笑顔がほころぶ。

 その後も何曲か童謡を歌い、全身にじんわりと汗をかき始めたところで配信を終えた。

 リスナーさんたちもすごく喜んでくれたし、童謡縛りでデュエット歌枠というのもありかもしれない。


***


 みんなには内緒の余談。

 湯船から出て熱めのシャワーで汗を流しながら、ミミちゃんとの触り合いっこを存分に楽しんだ。

 ぎゅ~って抱き合ったし、たくさんキスもした。

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