第69話 力が出ない日はミミちゃんに甘えたい

 寝苦しい熱帯夜が明け、朝からなんとなく体がだるい。

 元気の塊とよく言われるあたしにも、力が出ない日というのは存在する。

 とはいえ、『夜に予定している配信に支障があるかも』と焦ることはない。

 あたしはすでに、解決策を知っているからだ。


「ミミちゃん、いま空いてる?」


 ノックをして返事をもらってから恋人の部屋に足を踏み入れると、ベッドに腰かけるミミちゃんが目に入った。

 傍らには本が置かれているので、あたしが来るまで読書していたのだろう。


「はい、大丈夫ですよ」


 そう答える声はどこか嬉しそうで、表情も柔らかい。

 自惚れだったら恥の一言に尽きるけど、あたしの来訪を喜んでくれているようにも見える。

 読書の邪魔をしてしまったかもしれないと心配していたので、少しばかり気が楽になった。


「ベッドでイチャイチャしない?」


「しますっ」


 ノータイムで力強く返答してくれたミミちゃん。

 返事と同時にスッと立ち上がり、すぐさまベッドを離れてあたしの元へ歩み寄ってくれた。

 ミミちゃんこそがあたしにとって元気の源であり、力が出ない日はミミちゃん成分を思う存分に補給することが最善かつ最高の解決策だ。

 いまの反応を見るに、ミミちゃんも喜んでくれている……って思うのは、さすがに自惚れじゃない、よね?

 嬉しそうに微笑むミミちゃんに手を引かれ、二人そろってベッドに腰を下ろす。

 当然だけど部屋全体にミミちゃんの匂いが充満していて、わざわざ深呼吸しなくても普通に息をするだけでミミちゃんの甘く魅力的な香りを堪能できる。

 この時点ですでに、さっきと比べてコンディションがよくなっている気がする。


「ユニコちゃんも配信は夜ですか?」


 ミミちゃんがベッドの本を近くのローテーブルに移しつつ訊ねてきた。


「うん、そうだよ~」


「ということは、半日ぐらいイチャイチャできますね。えへへ、嬉しいですっ」


 長くて数時間のつもりだったけど、ミミちゃんがいいならお言葉に甘えさせてもらおう。

 それにしても、今日も今日とてかわいいな。息が止まりそうなほどドキッとしてしまった。

 肩が触れ合う距離にまで近付いて、さりげなく手も握ってくれて、とどめとばかりに屈託のない幸せそうな笑顔。

 最初は一緒に寝転んでのんびり過ごす感じをイメージしてたけど、これはもう、我慢できそうにない。


「ミミちゃん、目つむって」


「は、はいっ」


 ミミちゃんはどういう意図での発言かを即座に察し、すぐさま言う通りにしてくれた。

 幼さの残る顔立ちを、ほんのりとピンクに染まった頬が色っぽく演出している。

 あたしは絡めた指に少しばかり力を込めて、それを合図に唇を重ねた。


「ちゅっ」


 わずかに熱を帯びた柔らかな唇の感触は、全身の細胞が活性化しているんじゃないかと思えるほどの強烈な感動を与えてくれる。

 一回だけじゃなく、二回、三回、四回と、わずかな息継ぎの時間を挟んで何度も何度もキスを楽しむ。

 体の奥がじんわりと熱くなるのを感じながら、蕩けそうな幸福と快楽を貪るように味わう。


「んっ……ミミちゃん、大好きだよ」


「わたしも、大好きです」


 息のかかる近さで愛を囁き合い、再びキスを繰り返す。

 興奮で息が荒くなり始めたタイミングでベッドに横たわり、ギュッと抱きしめ合って今度は目を開けて見つめ合いながらキスをする。


「ミミちゃん……いい?」


「もちろんです」


 あえて主語を言わずに訊ねると、ミミちゃんは先ほどと同じく即答で返事をしてくれた。

 いつもなら和室に移動するところだけど、いまはその十数秒程度の時間すら惜しい。

 あたしたちは開始の合図であるかのようにひときわ濃厚な口付けを交わし、甘く素敵な愛の営みに没頭するのだった。

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