第86話 4日目、シャテーニュ先輩とコラボ!

 本日のコラボ相手は、マイペースな栗の妖精ことシャテーニュ先輩。


「みんな、こんユニ~! コラボウィーク四日目は、シャテーニュ先輩とリズムゲームで対戦するよ!」


 あいさつと共に自滅行為とも呼べるコラボの趣旨を説明し、リスナーさんたちからはあいさつと同じぐらい驚きのコメントが送られてきた。

 勝ち負けを抜きにして一緒に遊ぶだけなら、もっと穏やかな反応が返されていただろう。

 リズムゲームの鬼であるシャテーニュ先輩に凡人のあたしが挑むのだから、みんながビックリするのも不思議じゃない。


「みんな、おはよー。ユニコちゃんに負けないよう、全力で頑張るねー」


 おっとり系と称されることの多いシャテーニュ先輩が、その肩書に違わぬ穏やかな口調であいさつと意気込みを口にした。


「あたしもシャテーニュ先輩に勝つつもりで特訓してきたから、あたしのことも応援してね!」


『ワンサイドゲームになりそう』

『いい悲鳴を聞かせて』

『特訓して勝てるような相手じゃないぞ』


 案の定、シャテーニュ先輩の勝利を疑わないコメントが大量に流れている。

 このタイミングで、今回の勝負における補足説明を告げることにした。


「重大発表~! あたしが一回でも勝てたら、シャテーニュ先輩がリスナーさんたちに向けて甘々なセリフを言ってくれるよ!」


「言うよー」


 すると、コメント欄の様子が急変する。


『頑張れユニコちゃん!』

『心の底から応援してます!』

『応援団集めてくる!』

『魂込めて応援させていただきます!』

『勝ってくれー!』

『ユニコちゃんなら絶対勝てる!』


 予想通りではあるけど、絵に描いたような手のひら返しだ。


「リスナーさんの手がドリルだったことが判明したところで、さっそく本番に移ろ~!」


 スマホでリズムゲームを起動し、配信画面に映す。

 さっきは特訓したと言ったけど、厳密に言えば特訓とは少し違うかもしれない。

 正確にはノーツの速さや大きさ、判定調節など各種設定をより自分に合ったものへと微調整することに重きを置いていた。


「曲は交互に選ぶんだよね? ユニコちゃん、先に選んでいいよー」


「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおうかなっ」


 厚意を素直に受け取り、比較的得意な曲を難易度ハードで選択する。

 ローディング画面でチラッとコメント欄に目をやると、シャテーニュ先輩への温かな応援とあたしへの熱烈な激励が飛び交っていた。

 動機はともかく、敗色濃厚な勝負に臨む時の応援というのは非常に心強い。

 配信的には一時間ぐらい負け続けて最後に見事な勝利を収める展開がおいしいと思うけど……別に一戦目で勝っちゃってもいいよね。


「さぁ、勝つぞ~!」


 あたしは緊張感と高揚感を胸に、自分を奮い立たせる意味も込めて高らかに告げた。


***


 そして負けた。


「うぅっ、自己ベスト更新したのに……」


 サビの途中で若干危うい場面はありつつも、どうにかフルコンボを達成し、それまでの記録を大きく塗り替える。

 という誇らしい結果は残せたものの、戦績は伴ってくれなかった。

 オールパーフェクトでフルコンボを果たしたシャテーニュ先輩には、惜しくも敗れてしまう。


「次はシャテーニュが選ばせてもらうねー」


「うんっ、どんな曲でも今度こそ勝つよ~!」


 そして選ばれたのは、他と一線を画すと言われている超激ムズ曲。難易度はヘル。

 このゲームはイージー、ノーマル、ハード、エキスパート、マスター、エクストリーム、ディスペアー、ヘルと豊富な難易度から選択でき、エクストリーム以上は熟練の音ゲーマーでもサビの前で力尽きると言われている。

 あたしはそもそもハードをフルコンするのが精一杯で、一つ上のエキスパートでもクリアできる曲は数少ない。

 シャテーニュ先輩が選んだ曲もハードならクリアできる自信はあるけど、ヘルは言わずもがな。


「この曲はヘルの譜面が一番楽しいんだよー。ふふっ……マルチプレイだと体力が尽きても最後まで遊べるから、ユニコちゃんも存分に堪能してね」


「ひぇっ」


 優しい口調で告げられたはずの言葉に、そこはかとない恐怖を覚えた。

 曲が始まると同時にゲリラ豪雨のごとき勢いでノーツが画面上部から降り注ぎ、限界を超えた集中力を発揮して指を高速で動かし続ける。

 あたしの体力は演奏開始十秒ぐらいでゼロになり、シャテーニュ先輩は鼻歌混じりでオールパーフェクトを達成した。


「まっ、まだまだこれから! 勝つまでやめないからね!」


「望むところだよー」


 以降も戦意を喪失することなく延々と挑み続けたものの、心より先に指が限界を迎え、やむなく雑談へと切り替えることになる。

 その中で、あたしも同じセリフを言うという条件のもとシャテーニュ先輩に罰ゲームを受けてもらえることになり、リスナーさんたちから救世主のごとく感謝された。


「完敗だったけど楽しかった~。シャテーニュ先輩、また勝負してね!」


「もちろん、いつでも受けて立つよー」


 再戦の約束を交わし、配信を終える。

 それからシャテーニュ先輩とおしゃべりしている間に指の疲れがマシになったので、ミミちゃんも誘って三人でマルチプレイを楽しんだ。

 思ってたより再戦の時期が早かったけど、配信外だから別件ということで。

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