第26話 ちょっとした企画④

 用意したお題をすべて終えるまで、実に二時間近くかかった。

 ティッシュの空箱と大量のメモ用紙をテーブルの隅に移す。


「お題全部達成できたよ~!」


「思ってたより時間がかかりましたけど、体感的にはあっという間でした」


 ミミちゃんの言う通りだ。

 実際には二時間を超えているのに、まだ十数分ぐらいしか経っていない気がする。


「それだけ楽しかったってことだねっ」


「はい、すごく楽しかったですっ」


『楽しかった』

『めちゃくちゃ面白かった』

『もう終わりか~』

『またやってほしい』

『私も楽しかった~』


「お題箱が空っぽになったことだし、エンディングに――と思いきや、まだ続くよ~!」


 フェイントを入れつつ、エンディングにはまだ早いことを告げる。


『マジか』

『アンコール』

『やったー!』


「お題箱はもう空っぽだから、最後はリスナーさんたちがお題を出してねっ」


「いまから一分間、コメント欄で一番多かったお題を採用させてもらいます」


「似たような内容は、同じお題として扱うよ~」


「それではさっそく、募集スタートですっ」


 説明を済ませると同時に、今日大活躍のストップウォッチを起動して時間を計る。

 スタートの合図をするや否や、怒涛の勢いでお題のリクエストが流れてきた。


『イケボ』

『ヤンデレ』

『イチャイチャ』

『クールキャラ』

『ひたすらイチャついてほしい』

『入れ替わり』

『漫才』

『好きな食べ物について』


 できる限り見逃しのないよう、ミミちゃんと共にコメント欄を凝視する。

 食べ物系のお題や、声や性格を変えるお題など、まさに多種多様だ。

 ただ、その中でも明らかに群を抜いてリクエスト数の多いお題がある。

 目視での確認だから正確な判断は難しいと思っていたけど、これは意外と……。


「――はいっ、ここまで!」


 一分経ったところで、ストップウォッチを止める。


「みんな、たくさんのリクエストありがとう!」


『けっこう圧倒的だった』

『わくわく』

『あれかな』


「イチャイチャしてほしいというコメントが、けっこう多かった気がしますね」


「うん、あたしも思った!」


 百近いコメントのうち、およそ八割ほどが二人のイチャイチャを希望する内容だった。


「というわけで、いまから五分間――ううん、せっかくのアンコールだから倍の十分間、ミミちゃんとイチャイチャするよ~!」


『助かる』

『尊死しないか心配』

『これで明日も仕事を頑張れる』


「ミミちゃん、チューしよ! みんなにキスの音聞かせてあげよう!」


「えっ!? わ、わたしもしたいですけど、さすがにダメですよ」


『てぇてぇ』

『ユニコちゃんが水を得た魚のようだ』

『何気にミミちゃんもサラッと大胆なこと言ったね』

『控え目に言って最高です』

『いいぞもっとやれ』

『開始早々いい意味でヤバい』


 本格的に危ない話題は避けるよう念頭に置きつつ、お題に沿ったトークであることを免罪符にして、けっこう過激なことを口にする。

 配信後、ありがたいことにSNSでトレンド入りを果たし、二人の登録者数も目に見えて増えた。

 それになにより、この配信が楽しかったという感想をたくさん貰えたのが嬉しい。

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