第259話 表現力を鍛えたい

 シャテーニュ先輩とエリナ先輩が配信で企画を発表した後、あたしとミミちゃんは二人でご褒美を賭けて模擬戦を行った。

 惜しくも負けてしまったけど、抱き合いながら添い寝してほしいというご褒美は、勝者であるミミちゃんだけじゃなく敗者であるあたしにとってもご褒美だ。

 こういう勝負事で勝っても負けても喜べるというのは、本当に素晴らしいことだと思う。


「ユニコちゃん、よかったら今日も一緒に入りませんか?」


 お風呂が沸いて給湯器から給湯完了の音声が流れた直後、ミミちゃんが期待の眼差しを向けながら訊ねてきた。


「うんっ、あたしは最初からそのつもりだったよ~」


 そう答えると、ミミちゃんの表情がパァッと明るくなる。

 さっきの勝負の話じゃないけど、こんな感じでお互いが同じことで喜べるのって素敵だよね。



***



 それぞれ自分の部屋に着替えを取りに戻ったあたしとミミちゃんは、脱衣所で再び顔を合わせる。

 いつものように服を脱いでいる途中で、ふと頭に一つの考えが浮かんだ。


「……表現力って、あたしたちにとってかなり重要だよね」


 パンツだけを身に着けた姿のまま、あたしは真面目な語調で告げた。


「そうですね、ゲーム実況だったり、食事とか体験の内容を配信で話す時だったり」


 と、セーターを脱ぎ終えたミミちゃんが同意の言葉を放つ。


「表現力を鍛えるために、いまから実況してみてもいい?」


「いまから実況? どういうことですか?」


「分かりやすく、実際にやってみるね。こほんっ……ミミちゃんがブラのホックを外した瞬間、拘束から解き放たれた大きく柔らかい二つの塊がぶるんっと躍動した。あたしはその迫力に圧倒され、自分の同じ部位を見てあまりの差に衝撃を受けた」


 咳払いを挟み、試しにいまの状況を言葉に出して実況してみたものの、いざ実行してみると実況というより即興の小説を朗読しているみたいになった。

 ちなみに、ちょっとだけ脚色も含んでいる。

 胸囲の驚異的な格差は何年も前から痛感しているので、いまさら衝撃を受けることはない。

 いや、でも……確かに驚いたりはしないけど、ミミちゃんのおっぱいを見た瞬間の高揚感とか喜びとか興奮は未だに昔のままだから、表現としてはそれを衝撃と言い換えるのも間違いではないのかも。


「実況っていうより、小説みたいですね」


「うん、あたしも実際にやってみてそう思った」


「表現力は鍛えられそうですか?」


「う~ん……いまのだけじゃなんとも言えないかな。もうちょっと続けてもいい?」


「いいですよ。ちょっと恥ずかしい気もしますけど」


「そう言って頬を赤らめるミミちゃんの柔らかな笑顔はとても素敵で、あたしはいますぐ抱きしめて唇を奪いたくなった。お風呂に入る前だからと自分に言い聞かせて、グッと我慢する。う~っ、ギュッてしたい!」


 実況した後、ポロッと本音が漏れた。


「なんで我慢するんですかっ。抱きしめてほしいです!」


「えっ? あっ、ご、ごめん。じゃあ、遠慮なく――」


 思った以上に圧がすごくて、反射的に謝ってしまう。

 本人からお許しが出たので、我慢せず抱きしめることにした。

 服を脱いだことで冷え始めていた体が抱擁によってポカポカと温まり、少し経ってから浴室へ移動。

 そこからは表現力を鍛えるという試みはひとまず忘れて、普通におしゃべりしながらバスタイム楽しんだ。

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ギリギリセーフ(?)な配信活動~アーカイブが残らなかったらごめんなさい~ ありきた @ARiKiTa9653

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