第125話 特訓しつつ凸待ちする配信①

 筋肉と一緒で、ゲームの腕も放っておくと徐々に弱くなる。

 もちろん個人差はあるだろうけど、前にできたことが時間を置いたらできなくなっていた、という経験はそう珍しくないはず。

 ってわけで、今日はレースゲームの特訓をすることにした。


「みんな、こんユニ~! 多くは語らない、あたしと戦いたいやつはまとめてかかって来い! でも一回参加したら次の一戦は見送ってね、ってことでさっそくルーム作るよ~!」


『こんユニ!』

『展開早くて草』

『急いで起動しないと』

『了解でーす』

『頑張れ~』


「あと、さっき全体チャットに凸待ちの連絡入れておいたから、もしかしたら途中でメンバーの誰かが来てくれるかも! 来なくてもリスナーさんがいるから寂しくない!」


 この配信は、視聴者参加型であり凸待ちでもある。

 準備は万端。いつでも始められるけど、その前にこれだけは報告しておかないと。


「ちなみに、ミミちゃんはいまお風呂に入ってるよ! これは自慢なんだけど、実は服を脱ぐところをしっかり眺めてから配信を始めたんだよね~」


『情報助かる』

『自慢するなw』

『だから普段以上にテンション高いのか』

『微笑ましいけどシュールだ』

『わざわざ脱ぐところだけ見に行ったんだね』


 ミミちゃんが服を脱ぐ前に触りっこしたりキスしたりそれなりにスキンシップを堪能したという話は、言いたくてたまらないけど胸の内に秘めておく。


「それじゃ、そろそろパスワードを発表しようかなっ。一回戦のパスワードは――」


 口頭で伝えつつコメント欄にも固定コメントでパスワードを公開し、参加者を募る。

 すると、本当にありがたいことに数秒と経たずして参加枠が埋まった。


「よ~し、初戦は華々しく一位で飾らせてもらうよ!」


 そう意気込んで臨んだレースの結果は、なんと一位!

 ……まぁ、下から数えて、なんだけど。

 苦手なコースで細かいミスが重なったのと、終盤の妨害ラッシュが痛かった。


「次のレースはあたし以外アイテム禁止!」


 不公平の極致と言っても過言ではないルールを追加し、次のレースへと進む。

 さすがにコメント欄のみんなもあたしの勝利を確信している様子だけど、それでも油断は禁物だ。


「この戦いだけは、負けるわけにいかない……っ」


 勢いに任せて自分に有利すぎる展開に持ち込んだ結果、勝って当然という余計な重圧を背負う羽目になってしまった。

 そしてレースが始まり、何度か危うい状況に見舞われたものの、一度独走状態になってしまえばリスナーさんたちにあたしを止める手段はなく、二位とそれなりの差をつけてのゴール。


「勝ったけど素直に喜べないな~。やっぱりイカサマはダメだね、正々堂々と勝負しないと!」


『そりゃそうだ』

『大切なことを学んだね』

『アイテムなしであそこまで食い下がった人すごすぎる』


 そもそも特訓になっていないという事実にも気付き、いまの勝利はノーカウントということにして次のレースへ。

 続く数レースの結果は、一位と僅差の二位になったり、最下位争いをしたり。

 不意に尿意を催したことで、いったんコントローラーを置く。


「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる!」


 包み隠すということを一切せず、ありのままを告げて席を離れる。

 いまのところ凸0人だけど、果たして誰か来てくれるのだろうか。

 誰かが凸してくれたら、チーム戦をやってみるのも面白そうだ。

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