第159話 泳いだ後は眠くなる
「プール楽しかったね~」
「近いうちにまた行きたいです」
ちょっとしたハプニングが起きたものの、あたしたちは存分にプールを堪能した。
学生時代を思い出しながら全力で泳いでタイムを計ってみたり、苦手な泳ぎ方の練習をしてみたり。
水中鬼ごっこでひとしきり盛り上がった後はシャワーを浴びてから帰路に着き、シャテーニュ先輩を家に招いた。
おしゃべりしたりゲームしたりごはんを食べたりするつもりだったんだけど……。
「これはぐっすり寝ちゃってるね」
シャテーニュ先輩はソファに腰かけた後、ふと気付いた時にはもう寝息を立てていた。
「きっと泳ぎ疲れちゃったんですよ」
ブランケットをそっとかけながら、ミミちゃんが言う。
「あたしたちも少し寝る?」
「そうですね。和室で寝ましょうか」
「えっ、寝るってそっちの意味? ミミちゃんは泳いだ後の眠気より性欲の方が強いんだね~」
あたしとミミちゃんが和室で寝るのは、主にエッチする時だ。
ミミちゃんの意図には察しが付いているんだけど、ついからかうようなことを言ってしまった。
「ちっ、違います、和室の方がリビングから近いから、シャテーニュ先輩が先に起きても分かりやすくていいかなって思っただけです」
「あははっ、分かってるよ~。ごめんね、和室で寝ようって言われたから、つい」
「おやすみのキス十回で許します」
からかわれて少し不満気な様子も、許すための条件もなにもかもが尊い。
「十回と言わず、何回でもいいよっ」
あたしはミミちゃんの手を引き、和室へと移動した。
シャテーニュ先輩が起きた時のため、ふすまを開けたままにしておく。
布団を敷いて枕を置き、二人で寝転ぶ。
「ところでミミちゃん、プールではなかなか大胆なことしてくれたよね」
「ご、ごめんなさい。でも、あれは――」
弁明しようとするミミちゃんの口を、あたしは自らの唇で塞いだ。
動揺してわずかに開いた唇の隙間から舌を入れ、わざと水音を立てながら舌を絡める。
あいさつ代わりと言うには濃厚すぎるキスを味わいながら、次第に恍惚とした表情へと変わっていく様を眺めた。
「一回目のキス、ごちそうさま」
眠気とは違う理由でトロンとした表情を浮かべるミミちゃんに、あたしはおもむろに二回目のキスを行う。
そして、おやすみのキスはその呼び名に反し、あたしとミミちゃんを睡眠から遠ざけることとなった。
***
結局あたしたちは、仮眠を取るどころか体を動かし続けていた。
壁掛け時計に目をやると、最後に時間を確認してから二時間ほどが経過している。
「シャテーニュ先輩、もう起きてるかな?」
「見に行きましょうか」
あたしとミミちゃんは乱れた服装を正して立ち上がり、すぐ隣のリビングへと移動した。
すると、いつの間にか起きていたらしいシャテーニュ先輩がこちらに気付き、持っていたスマホを近くに置く。
「オはよー」
「シャテーニュ先輩、声裏返ってるよ」
「顔が真っ赤ですし、目も泳いでますね」
平静を装いつつも明らかに様子がおかしい先輩の姿を見て、あたしとミミちゃんはすべてを察した。
ソファからだと角度的にテーブルが視界を遮って和室の様子は覗けないけど、音に関しては話が別だ。
あたしとミミちゃんは、エッチする時にけっこう大きめの声を漏らしてしまう。
「な、なにも見てないよ」
「そ、そっか、見てないか~。だったら、だ、大丈夫だよね、ミミちゃん?」
「そ、そそ、そうですね、見られてないなら、問題ありませんよね」
いつ頃に目を覚ましたのかは分からないけど、少なくとも数分前どころではないだろう。
後輩が情事に耽っている声を聞かされ続けたシャテーニュ先輩と、先輩に恥ずかしい声を聞かれてしまったあたしとミミちゃん。
恥ずかしさをごまかすように、あたしたちは雑談に花を咲かせる。
その後ピザを注文して、待っている間にみんなでサラダを作り、ピザが到着する頃には顔の火照りも収まっていた。
赤面必至のハプニングもあったけど、なんだかんだで楽しい一日だった。
次は全員で行けたらいいな。
その時は、今日来れなかったメンバーに水着を持参するように連絡しておかないと。
いや、あえて教えない方が面白いかも……?
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