第63話 一期生vs二期生⑧

「続きまして第四問! どっちのチームも王手をかけてるから、次で決まっちゃうかもしれないよ~! それではスタッフさん、お題をお願いします!」


 司会の仕事もきちんとまっとうしつつ、渡されたメモ用紙を開く。

 そこに記されていたのは、『スイカ割り』だった。


「ふっふっふっ、これはもらった!」


 あたしは勝利を確信し、不敵な笑いと共に席を離れる。

 棒を振り下ろす動作だけだと、真っ先に剣道を思い浮かべるはずだ。

 だから、あたしはまず棒を握るポーズを取り、その場で三周ほどグルグルと回った。

 続けて数歩移動し、立ち止まって腕を大きく上げ、勢いよく振り下ろす。

 目を閉じた方がより分かりやすいかとも思ったけど、万が一にもエリナ先輩とぶつかったら危ないので、最初から最後までしっかり目を開けていた。

 あたしは自信に満ちたまなざしでミミちゃんの方を向き、解答を待つ。


「分かりましたっ。答えは、スイカ割りですっ」


 ミミちゃんが自信たっぷりに答えると、間髪入れずに正解のSEが鳴る。


「ミミちゃ~ん!」


 テーブルの方へ駆け足で戻り、出迎えてくれたミミちゃんにガバッと抱き着く。

 これで二期生チームは勝利条件である2Pを獲得した。

 とはいえ、まだ勝利が確定したわけじゃない。

 一期生チームが正解すれば再び同点となり、次の問題に移ることになる。


「緊張しますね」


「うん、ドキドキしてきた」


 ここで決着するのか、それとも振り出しに戻るのか。

 あたしとミミちゃんは手に汗を握り、勝負の行方を見守る。


「分かった、和式トイレで用を足してるところでしょー。最近まったく見なくなったよねー、和式トイレ」


 シャテーニュ先輩は柔らかく微笑みながら、迷いを感じさせない声音で解答した。

 おそらく、エリナ先輩が身を屈めているところからそう判断したのだろう。

 ブブーッというSEの後、シャテーニュ先輩が「え、違うの?」と不思議そうに首をかしげる。


「ちっがうわよバカ! 線香花火よ! 線香花火!」


『トイレw』

『言われてみれば姿勢が似てる……のか?』

『確かに最近和式トイレ減ったよね』

『親の実家が和式だったなー』

『エリナ様の怒声が心地いい』


 不正解ではあるものの、シャテーニュ先輩とエリナ先輩のやり取りにコメント欄は大いに賑わっている。


『ユニコちゃんミミちゃんおめでとう!』

『二期生おめでとう!一期生も惜しかった!』

『かなり僅差でこっちもドキドキしました!』


 そして、二期生の勝利を祝うコメントや、両チームの健闘を称えるコメントが凄まじい勢いで流れていく。


「三つの種目が全部終わったので、結果を発表するよ~!」


 コメントを一つ一つ確認したい気持ちをグッと堪え、司会進行役の務めを果たす。

 クイズ対決では一期生が二問正解、二期生が三問正解で二期生チームの勝ち。

 レースゲーム対決では一期生チームが計97P、二期生チームが計87Pで一期生チームの勝ち。

 いま終わったばかりのジェスチャー対決で勝ったのは二期生チーム。

 三つの種目の勝敗をそれぞれ簡潔におさらいしてから、続けて最終結果を告げる。


「というわけで、今回の対決企画は二勝一敗で二期生の勝利です! リスナーさんたち、最後まで付き合ってくれてありがと~! まだ感想トークの時間もあるから、もう少しだけ配信を閉じないでくれると嬉しいな!」


 その後、四人が口々に感想を話す中で、全員が共通して『またやりたい』という意思を強く示した。

 感想トークに移ってから数分も経たないうちに、それなりの頻度で集まって対決企画をすることが前提として話が膨らんでいく。


「二期生が3D化したら、ジェスチャー対決だけで二時間ぐらい配信したいよねっ」


「いいねー。レースゲーム対決も、百レースぐらいの合計ポイントを競う耐久配信とか面白そー」


「一期生と二期生が協力して難問に答えるクイズ企画もやってみたいです」


「今回は候補から外れたけど、運動系の対決も楽しいんじゃないかしら」


 長いようであっという間だった三種目の対決が終わって、名残惜しさを感じつつ締めのあいさつをして配信終了――ということにはならず。

 運営さんにお願いして当初の予定より一時間ほど終了時間を延長してもらい、あたしたち四人はリスナーさんたちからのコメントを拾いつつ感想トークで盛り上がるのだった。

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