第155話 冗談かと思った驚愕の新設備③

 ロッカーと洗面台、シャワー室へ通じていると思しき扉、そして貸し出し用の水着。

 更衣室に足を踏み入れて間もなく、それらの情報が視界に入ってきた。


「おぉ~っ、いっぱいあるね!」


 入口のすぐ近くには扉のないウォークインクローゼットがあり、何気なく中を覗くと貸し出し用の水着がズラリと並んでいるのが見える。

 サイズの豊富さは水着売り場をも凌ぐと言っても過言ではなく、体型を考慮してくれた心遣いがとてもありがたい。

 これだけあれば、あたしのような慎ましさを極めた胸はもちろん、ミミちゃんの爆乳にもしっかり適応した物が見つかるはずだ。

 とはいえ、ここで問題が一つ。


「こ、これ、水着、ですよね……?


 ミミちゃんが顔を真っ赤にしてまじまじと観察しているのは、ビキニを凌駕する露出度を誇るマイクロビキニ。

 ただでさえ大胆極まりない代物だというのに、ここにあるのはほとんど紐に近く、公共の場で着用すればまず逮捕は免れない。


「あ、スク水だ。懐かしいなー」


 シャテーニュ先輩が手に取ったのは、誰もが見覚えのある紺色の学校指定水着。

 こちらは特別布面積が小さいとかの違いはなく、どこにでもあるごく普通のスク水だ。

 この場所にスク水があること自体が普通とは言えないんだけども。


「運営さん、随分と攻めたね」


 あたしはしみじみとつぶやいた。

 そう、問題というのは、水着の種類だ。

 サイズはいろいろあるのに、種類は紐――もといマイクロビキニとスク水のみ。

 いくら女性しか来ないとはいえ、大胆というかなんというか。


「せっかくだし、紐を着ようかな! 二人はどうする? 一緒に紐着る?」


「紐を着るって、滅多に聞ける言葉じゃないですね」


「んー、ちょっと恥ずかしいからスク水にするよー」


 シャテーニュ先輩は迷わずスク水を手に取る。


「ミミちゃんは?」


「紐にします。ユニコちゃんとおそろいの水着を着る機会ですから」


 ミミちゃんはニッコリと微笑んで、明るい声でそう言った。

 ここがプールの更衣室じゃなくホテルの一室だったら、今頃すでに押し倒してキスして情熱的な愛撫を開始していたと思う。


「うぐぅっ……かっ、かわいすぎる……っ!」


 あまりの尊さに全身の細胞が弾け飛ぶほどの衝撃を覚え、歯を食いしばってどうにか人の形を保つ。

 三人とも水着が決まったことで、ウォークインクローゼットを後にしてロッカーの方へ。


「わ~っ、ネームプレート貼ってある! あたし専用ってことだよね!」


 壁沿いに並ぶ縦2m横1mほどのロッカーには、それぞれにメンバーのフルネームが記された表札サイズの立派なネームプレートが貼ってあった。

 皇エリナ、栗夢シャテーニュ、一角ユニコ、闇神ミミ、猫目ネココ、スノウ・フレイムサンダー。と、デビュー順に並んでいる。

 あたしは最近の配信や夏の暑さなど他愛ない日常の雑談を交わしながら、紐に限りなく近い水着という非日常的な物を身に着けた。

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